■感想など■

2012年08月05日

[THEM]『Piece.04』「あなたをさがしてる」〜見つけたい真実〜

■■【2】■■

 “彼”は、彼女が初めて好きになった男性(ひと)だった。
 はっきりとした出会いがいつだったか、それはもう定かではない。
 16歳で、普通と比べても遥かに遅い初潮を迎え、それからほどなく、身辺を今までよりもずっと大胆に黒服の男達が徘徊し始めた頃だったとは、思う。

 神羅の、生化学研究室別室ジェノバプロジェクト推進チーム第三セクタ担当者の意向によって、彼女はその生育の一切を監視されて育った。
 命を賭して彼女を逃がした母の甲斐無く、その行動の全ては神羅によって把握されていたのだ。
 彼女が十分に成長し、成熟した卵子の摘出とこれから数限りなく行われるだろう実験に耐えうる体力を得るまでが、彼女に残された“自由な”時間だった。

 身の回りに男性は多かったが、親しくなった事はあってもそれが恋になる事は無かった。
 彼等は決まって、日を置かずに彼女を避けるようになるからだ。
 彼女に欠点があるわけではない。
 むしろ美点ばかりが目についた。
 彼女はスラムに身を置きながらも、日に向けて大きく花を咲かせる向日葵(ひまわり)のような笑顔を忘れず、彼女を知る誰に対しても礼儀と節度を忘れなかった。
 美しく成長し、その微笑みに柔らかさが加わって免疫の無い新顔の男性を無意識に虜にしてしまうようになっても、彼女の周囲に対する優しさと心遣いは変わらなかった。
 彼女も薄々は感じていたが、彼女を監視し警護し、場合によっては拉致すべく、常時数名の神羅社員が彼女の身の回りに張り付いていた。
 その者達が、彼女に近づく男を排除してきたのである。

 そんな時、彼女は“彼”に出会った。

 今となっては、その出会いも仕組まれたものだったのではないか?と考えるようになっていた。
 “彼”は、神羅兵士であり、近くソルジャーの適性検査を受けるのだと言っていた。
 古代種セトラの末裔と神羅の特殊強化兵ソルジャー。
 この二つの力が生み出す“モノ”に、神羅は興味を持ったのではなかったか。

 けれど、それでも良かった。

 たとえ仕組まれたものだったとしても、それでも良かった。
 “彼”によって恋を知り、“彼”によって女である悦びを知った。
 愛……だったのだろうか?
 そこまでの強さは、無かった気が、する。
 彼がソルジャーファーストに任命され、ウータイとの泥沼の闘いに終止符を打つべく行われたあの最終決戦に臨んだのは、今からもう6年も前の事だ。
 その出立の3日前、わずかな希望とどうしても感じてしまう暗い絶望の中、

 彼に抱かれた。

 受胎は、しなかった。
 今日と同じように、お腹が“しくしく”っとして、なんとなく体の中にどんよりとしたものが溜まってる感じがし始めた次の日。
 いつもと変わらぬ顔をして生理がきた。
 ほっとする反面、どこか悔しく想っている自分がいた。

 彼との子供が欲しかったのだろうか?

 そうかもしれない。
 そうだったかもしれない。
 ひょっとしたら、彼と繋がる確固たるモノが欲しかっただけなのかもしれないけれど。
 それから数度、彼は局地的に行われた抵抗勢力の鎮圧のため戦地へと赴いたが、ミッドガルに帰って来る時は必ず顔を見せてくれた。

 痛くて。

 痛くて苦しくて。

 でも、それでも彼を迎い入れる事に悦びを感じ始めた頃、彼からの便りは途絶え、彼が顔を見せる事も無くなった。
 何もかもが突然の事で、何もかもが闇に隠されていた。
 忘れる事など出来ない。
 けれど、忘れなければならない……とも想う。
 そういう、声が聞こえる。
 自分の、どこか深い部分から囁く声が聞こえる。

 私が妊娠しなかったからだろうか?

 そう思った事もある。
 考えると哀しくなるが、そう思った事があるのだ。

 古代種セトラの末裔と神羅の特殊強化兵ソルジャーでは、受精しない。

 そう、神羅が結論付けて、もう私には彼は不必要だと決めつけられたのでは?

 その考えは、彼の記憶を心の奥底に押し込める早さを手助けした。

 忘れなければ。

 忘れてしまわなければ。

 それが、どんなに苦しく辛い事であっても。
 心そのものが壊れてしまうより、ずっといい。

 なのに。

 エアリスは目の前で“彼”と同じ仕草をするクラウドを見ながら、彼が“落ちてきた”日の事を想った。
 あまりにも彼と雰囲気が似ていたから。
 どうしようもなく切ない想いが溢れたから。
 この人を、見ていたいと想った。
 もうすこし、そばにいたいと想った。
 「報酬デート1回のボディガード」なんて、よくも咄嗟に口に出来たものだ。
「ふふ……」
「どうした?」
「あ、ううん。なんでもない」
 自然と笑みが零れ、訝しげに眉を寄せるクラウドに、彼女は慌てて両手をぱたぱたと振った。
 彼は知らないだろう。
 彼女の想いを。

 最初は、似ていた、から。

 でも今は。

「……風邪引くぞ。部屋に戻った方がいい」
 彼は、少し不器用な気遣いで、少し睨むようにして彼女を見た。
 まるで、聞き分けの無い妹にするみたいに。
「あ〜クラウドったらナマイキ。おねーさんなんだよ? わたしの方が」
「どうでもいいが、“リーダー”の言う事には従うものだ」
 その視線は、体調が悪いのに逢瀬に出掛けていった時、“彼”が見せた真剣な目に、少し似ていた。
「体調を崩したら、パーティから外すからな」
「クラウド、ひどい。ティファは、いっつも一緒なのに」
「……考え過ぎだ」
 憮然としてしかめつらしく眉を寄せる彼が、なんだか少し可愛いと思った。

 クラウド。
 あなたは、誰?
 ほんとうに、あなたはあなた?

 ほんとうのあなた、どこにいる?

 わたし、見つけたい。

 あなたを。

 ほんとうの、あなたを。



 そうしたら、わたし……。


         −おわり−

■■[THEM]『Piece.04』「あなたをさがしてる」〜見つけたい真実〜■■

「2012/07/29 00:00」投下開始
「2012/08/05 00:00」完了
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