■感想など■

2012年08月26日

[THEM]『Piece.06』「ミッションX」〜孤軍奮闘〜

「やっぱり人形とかがいいんじゃねーか?」
 機械油の染み込んだフライトジャケットをハンガーにかけながら、不精髭に覆われた顎をざらりと撫でて艇長は言った。
「いや、もうすぐ学校じゃないですか。カバンとか新しいノートとか、そういう役に立つものの方が良くないですかね?」
 仕立ての良いダークブラウンのスーツを着込んだ紳士が、ニブル産の紅茶の香りを楽しみながら思慮深く言う。
「新しいフライパンが欲しいって、前に聞いたことがあるぞ?」
 いかつい顔の巨漢は、褐色の隻腕でビールの空缶を握り潰してぼんやりとつぶやいた。
「心がこもってさえいれば何でもいいと私は思うが……」
 そこらの女性よりも遥かに綺麗な長い黒髪を揺らして、普段は寡黙な美丈夫が誰ともなしに口にする。
「そういうのオイラわかんないけど、オイラだったら新鮮な野ウサギがいいなぁ」
 眠そうにカーペットの上でまどろんでいた隻眼の獣が、ふあっと大きな欠伸をしてから言った。
『いや、それはダメだろう』
 4人の男は心の中でほぼ同時に溜息する。
 問題は山積で、道のりは険しく困難だった。

 タイムリミットまでもう2日も無い。
 2日目の夜には作戦は決行され、そしてそのミッションは完璧に行われなければならなかった。失敗すればたちまちのうちに信頼を失い、そしてそれは築き上げた友好関係を瓦解させ権威の失墜さえも招きかねない。それだけはここにいる勇者達全員にとってどうしても避けたい事態だった。
 たとえそれが、どんなに絶望と困難に満ちた、危険極まりないミッションだったとしても。
「本人に聞いてみればいいんじゃないか?」
 今まで仲間の言葉をいちいち頷きながら聞いていたにも関わらず一言も発言してなかった、クセの強い、太陽に透かした蜂蜜色の髪をした青年が、これ以上無いくらい自信たっぷりに言った。
「却下」
 途端にキッチンから厳しい否定の言葉が飛んでくる。
 少しの間も与えずに素晴らしい意見を否定されて青年が眉間にシワを寄せてそちらを見ると、おたまを持ったまま艶やかな黒髪の女性がその可愛らしい唇をふにゅ……と突き出して睨んでいた。
 なんだかわからないが自分が危機的状況にあると感じて、青年は目をぱちくりと瞬かせる。
「どうして?」
「……あのね、そういうのは本人に聞いたら意味無いのよ?」
「本人の事は本人が一番良くわかっていると思うぞ?」
「そりゃあそうだけど……」
「奇襲攻撃は事前に敵に察知されない事が前提条件だけど、それと同じ事じゃないかな?」
 隻眼の獣がふんふんと鼻を鳴らしながら青年に言った。彼には今彼らが話題にしている最重要作戦の問題点より、キッチンで良い具合に焼けているだろう鶏肉の方が気になるらしい。
「……そういうことか」
「ちーがーうー……」
 黒髪の女性はがっくりと肩を落とし、これ以上話しても無駄だとばかりにキッチンに引っ込んでしまった。

 不精髭の艇長は、予定日の近い妻が気になるのか話題に一向に進展がみられないと感じるやいなや、そそくさと帰っていってしまった。作戦決行までまだ2日ある。だから
『焦らなくてもいーんじゃねーか? 焦ってもロクなこたぁねーぞ?』
 と、いうことらしい。
 だがその実、せっかちで気の短い気質の彼は早々に考えることをやめて、残った者に全て任せる気でいるのだ……と、残された者達は全員思った。
「申し訳ありませんが、明日は早朝からジュノンに発たなければならないので……」
 旧神羅を解体し世界復興の礎(いしずえ)たる新組織を立ち上げたばかりの壮年の紳士は、申し訳なさそうに秘書の待つ車に乗り込んで、何度も車内で振り返りながら帰っていった。
 残されたのは、センスと言う言葉とは程遠いむくつけき褐色のヒゲゴリラと、岩山を駆けまわることで日々を消費している人間世界の事にはてんで興味の無いケダモノ、それに、その手のセンスとか感性にはヒゲゴリラよりも壊滅的に絶望的な美青年と、彼らの分の責任をも一身に背負ってこの危機的状況を打破し活路を見出さなければならない薄幸のヒロインだけだった。
 ようやく焼き上がった鶏肉をメインに晩餐が始まると、その話題は一旦棚上げにされ、会話はもっぱら些細な世間話と仕事の話に終始した。隻眼の獣は、彼のために用意されたレアの鶏肉を3羽分ぺろりと平らげ、冷ましたスープを鍋半分飲み干して、早々にダイニングのカーペットに寝転がっている。
 やがて食事が終わり、食後のコーヒーを口にしながらリビングのソファで作戦会議は再開された。
 今回の襲撃相手の性格や特徴、最近の動向などが詳細に検討され、その攻略の手がかりを探す。隻腕の巨漢はその相手にもっとも近く身を置きながら、対象の事を何一つ把握しておらず、そのためにそのブリーフィングは困難を極め、一時はこのミッションそのものを破棄する事さえ討議された。
 情報がほとんど得られない状況での作戦遂行は、暗闇でデスディーラーを相手にするくらい無謀で危険な行為だからだ。
「やっぱり無難なとこでまとめた方がいいんじゃねぇか?」
「1年に1度の大切な日なのよ? 小さい頃のそういう想い出って、ものすごく大切なんだから」
「今までそんな大層な事しなかったんだ。今年もケーキだけでいいじゃねぇか」
「何言ってるの? 今までしなかったからじゃない。今からでも遅くない。そういう想い出がほとんど無いっていうのは、とっても悲しいと思うもの」
「オイラ思うんだけど、結局クリスマスってなに?」
「ナナキは黙ってて」「おめぇは黙ってろ」
「……はい……」
 黒髪の女性と隻腕の巨人に同時に睨まれ、紅い獣は可愛そうなくらい小さくなってすごすごと引っ込んだ。
「みんな、聞いてくれ」
 話が一旦途切れると、それを見計らったように一同の顔を一人一人順に見つめ、金髪の青年は今まで見たことがないくらい真剣な表情で言った。
 その声には並々ならぬ決意と自信が溢れている。
 黒髪の女性はこくりと唾を飲みこみ、愛しい夫の言葉を待った。
「俺……思うんだ。
 俺達の思惑や想像を超えてあの子はどんどん大人へと近づいてゆく。
 あの子は今、大人へのステップを踏み始めたばかりだ。だからといってただ安穏としていれば、あの子はあっという間に俺達の想像をはるかに越えて成長してしまうだろう。
 そう、ティファのように」
 彼女はなんだかすごく嫌な予感がした。
 ものすごく嫌な予感だ。
 だから、さりげなく彼のそばに近寄って、身を屈めて“それ”を手に取った。
「だから俺は思うんだ。
 物事はそれが起こってからでは遅い。
 すでに手遅れである事が多い。俺達はあの闘いでそれを嫌と言うほど味わったはずだ。
 俺はもうあんな思いはたくさんだ。手遅れになる前に何かしておきたい。
 なら、もっと早くから事態に対して早急に対処出来るように用意しておく必要があるんじゃないだろうか?」
「何が言いたいんだ?」
 不信そうな隻腕の言葉に、彼は立ち上がり、左手をぐっと握りしめて右手を振った。この間見たTV映画の登場人物がしていたアジテーションのポーズだった。
「彼女に今一番必要なのは、人形でもカバンでもノートでもない。もちろん新しいフライパンでも新鮮な野ウサギの肉でもない!」
 そこでぐぐっと溜める。
 皆が息をひそめて自分を見ているのがわかる。
 なんだか気持ち良かった。
「俺達は彼女を護らなければならない。
 彼女が不快な目に会わないように、彼女が恥ずかしい目に会わないように。
 だから、そう、だからこそ、今彼女には必要なんだ」
 そこで一瞬言葉を切る。
 皆が自分を見ている。
 ……いや……自分ではない?
 彼は気付かなかった。彼らの視線は、彼の背後に注がれていたのだ。
 それに気付かず、彼は自信たっぷりに決意の瞳で宙を見つめ、言い放った。

「ブラジャーが!」

すぱかーーーーーん!

 ティファは何も言わず手に持っていたスリッパでクラウドの頭をはたいた。
 実に小気味良い乾いた音がした。


「クラウド、ティファ、ありがとー」
 両手でふあふあのぬいぐるみを抱え、新しい服に身を包んだ可愛い専制君主は、クリスマスの朝一番にクラウドとティファの家を訪れて、プレゼントに負けないくらい可愛らしい輝く笑顔で御礼を言った。
「気に入った?」
「うんっ!!」
 それがどんなに困難で長い道のりだったか知らないだろうそのマリンの笑顔に、ティファはようやく癒されたと思った。

 なんだか涙が出そうだった。


         −おわり−

■■[THEM]『Piece.06』「ミッションX」〜孤軍奮闘〜■■

「2012/08/26 00:00」投下開始
「2012/08/26 00:00」完了
この記事へのコメント
ブルーフィング→ブリーフィング
もしろん→モチロン

膨らみ始めてすらいないマリンにブラジャーだと……!
Posted by 青玉 at 2012年08月26日 00:08
 修正しました!
 毎度ありがとうございます!(商売か)

 クラウドはそんなことばっかり考えてるってことですね!(笑)
Posted by 推力 at 2012年08月27日 10:31
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