■感想など■

2012年09月09日

[THEM]『Piece.07』「いつまでも、いつまでも」〜あなたがだいすき〜

■■【2】■■

『クラウドと買物? どういうこと?』
 いつどこで、そんな話になったのだろう。
「クラウドと買物って……」
「え? じゃんけんで勝った方がクラウドと二人っきりで買物するって……」
「…………」
「あれ? 言わなかった?」
「いっ……言ってない!! ぜっっったい言ってないっ!!」
 しれっと言うエアリスに、ティファは思わず声を上げた。
 何度も言うが、自分が言ったつもりになってどんどん話を進めてしまうのは、エアリスの悪い癖だ。
 これはもう、絶対に直してもらわなければ!……と、ティファは強く強く思った。
 しかも今回は、誰がどうみても確信的だ。
 間違い無い。今晩のディナーの後に出る、デザートをかけたっていい。確か大好きなフルーツゼリーだった気がするが、それでもいい。
「でも……もうじゃんけんで決まっちゃったし……」
「そ、そ、それってずるいっ!」
「ずるい?」
「ずるいずるいっ」
「ずるいかなぁ?」
「そうだよ。だって最初に聞いてれば私だって……」
「私だって?」
「私だってちゃんと……」
「ちゃんと?」
「クラ…………」
 両手を握ってぶんぶんと子供みたいに振っていたティファは、目の前のくるくる巻き毛のおねーさんがいつの間にか瞳にいぢわるな笑みを浮かべているのを見て、思わず言いかけた言葉を飲み込んだ。
 気付いてしまったのだ。
 エアリスの思惑に。
 事前説明ナシの強引な事後承諾の次は、神羅の私設軍警察も真っ青でいぢわるな、血も涙も無い誘導尋問らしい。
「……あ……う…………」
 ティファは、そのすっきりとした首筋まで真っ赤にして黙り込んだ。

 “クラウドとは単なる幼馴染み。恋愛とかそういうのとはぜんぜん関係無いの”
 今までティファは彼に対してそういうスタンスを通してきたが、ここのところそれが崩れつつあるのは自分でも自覚していた。エアリスはそんなティファの煮え切らない態度を事あるごとに刺激して、ハッキリさせたがっているのだ。

「ティファ、認めちゃった方がいいよ? 気になってるんでしょ? クラウドのこと」
「そ…………」
 否定しても認めても、それはどちらともどこか違うと思った。
 気にしていないのはウソだ。
 けど、だからといって気にしているというのも微妙に違う。
 彼が好きだから気になるのか、彼が昔とどこか違うから気になるのか……それが好意的な感情からくるのか好奇心とか不安とか、どちらかと言えば負の感情からくるのか、彼女自身もよくわからないのだ。
「べ……別に、好きとか、そん」
「うそ」
 言葉の途中で強引に否定された。
「ティファの言葉、みんなウソ」
 たたみかけるように、ぜんぶ否定された。
 神羅の放ったマシン・エネミーより、ずっと容赦無かった。
「ウソなんて言ってない……」
「そう? じゃあ、ティファ、正直なんだ?」
「……そ、そうだよ」
「クラウドの事、好き?」
「す……そりゃ、好きよ? 仲間としてちゃんと信頼して」
「そうじゃなくて」
 エアリスの目から逃げるように顔を背けたティファの、その握った拳を、エアリスはきゅっと両手で包んだ。

 小悪魔エアリスの、ずるい、いつもの手だった。少しひんやりとして細くて華奢な指が、ティファの拳をほぐしていく。こうされるとティファは何も抵抗できなくなって、いつもエアリスの言うままになってしまうのだ。
 それをわかっていて尚してしまえる……というのは、実はものすごく狡猾で残酷なことなんだと、頭の良いエアリスがわかっていないはずは無かった。

 それでも“それ”をする。

 それが、他ならぬティファのためなんだということを、エアリス自身の他にはおそらくきっと誰も知らないに違いない。
「一人の、女として、好き?」
「……す…………」
「す?」
「…………す……」
 進退極まったティファは、じいぃと自分の顔を穴が開くくらい見つめてくる無垢なエメラルドグリーンの瞳を不用意に見返してしまい、慌てて目を瞑った。
 魔女の瞳には人を操る力があるのだ。
 エアリスが魔女かどうかはともかく、彼女の瞳に覗き込まれてそれでも「NO」と言える者は、旅の仲間達の中にはいない。ティファも、もちろんそうだった。
「……ん。わかった」
 けれどエアリスは、ティファが答えるより先に彼女の手を放すと、にっこりと微笑んで「んふっ」と息を吐いた。
「え?」
「いいよ。わかっちゃったもん」
 ぽかんとしたティファにエアリスは「にひひ」と、まるでユフィみたいな笑みを見せて胸の前で両手を“ぽんっ”と合わせた。
「んふふーそっかー……そーなんだー」
「……あ、あの、エアリス……?」
「いっしょだね、あたし達」
「え?」
「いっしょいっしょ」
 にこにこと、まるで白浜でキレイな貝殻を見付けた時みたいに満足げな微笑みを見せるエアリスを、ティファは眉を顰めて見つめた。
「じゃあ、わかった。3回勝負にしてあげる」
 なにがどう「わかった」のかさっぱりわからないが、エアリスは早くも右手を腰溜めにして準備を決め、ピンク色の舌で唇をぺろりと嘗めた。
「……えーと……」
「ほら、ティファ、じゃんけん!」
「あ……はい」
 毒気を抜かれたティファは、ゆるゆると右手を上げた。
「んもう! 気合が足りんぞ!? しんけんしょーぶなんだからね!?」
「…………うん」
 ティファは、ぷうとふくれた“とても2歳年上には見えない22歳のおねーさん”を見て、口元を緩めた。
 そして、「かなわないなぁ……」と心の中で嘆息しながらも、「好きだなぁ」と思わずにはいられないこの盟友と、いつまでも友達でい続けたいな……と思ったのだった。


 ところで、肝心のジャンケンの結果は?というと……


「勘弁してくれ……どうして俺が責められなくちゃいけないんだ?」
 金髪のツンツンチョコボ頭がふるふると左右に揺れ、心底わからないといった表情の目が戸惑いを含んで頭上の4つの瞳を見上げる。
 むうう……と唇をアヒルのように突き出した茶色いくるくる巻き毛の女性が、腰に手を当てたまま「わからないの? ほんとうに?」と視線で責めた。隣では黒髪の女性が同じようにその可愛らしい唇をひん曲げて、泣きそうな子供みたいな顔をしている。その視線は彼を責めている風では無かったが、「ひとこと文句言いたいの。言ってもいい?」という感じで微妙な問い掛けをしていた。
 たっぷりとたわわな胸が威圧的に彼の頭上で存在感を主張しているのを見上げて、彼は、あのでっかい胸を“のしっ”と頭に乗せられたら、さぞ重いだろうなぁ……とぼんやりと思った。
「ちょっとずるいんじゃない? ユフィと行くなんて。聞いてない」
「……特に用も無かったから付き合っただけなんだが……第一、エアリスと行くとも言ってないだろう?」
 ツンツンチョコボ頭の青年は、無表情のまま“アヒル口”の女性を見上げた。
 どうして彼女が怒っているのかわからない……とでも言いたそうだ。
「あ、クラウドってばそーゆーこと、言うんだ? ふーーん……こーんなカワイイ女のコのお誘い、知らんぷりしてたのにっ」
「……女のコって歳でもないと思…………ひひゃい……」
「ちょ……ちょっとエアリス!」
 にっこりと極上の笑みを浮かべたままクラウドの左頬を“ぐぬぬぬ……”と摘み上げたエアリスを見て、ティファは慌ててその手を取った。
「んもうぅ! ティファ、悔しくないのっ?!」
「あ、えと……悔しいというか、その、別に約束してたわけじゃないし……」
「悔しくないの?」
「だ、だから……」
「悔しいでしょ?」
「そりゃ……その……」
「悔しいよね?」
「う……うん……」
「ほら! ティファだって悔しいって! 哀しいって! 泣いちゃうぞ? 知らないぞ? ティファ泣くとスゴイぞ?」
 何がどうスゴイのか、クラウドにも当のティファにも、そこのところはまったくわからなかったが。
「ちょ……ちょっとちょっとちょっとエアリス! ……私は別に泣いたりなんか」
「寂しくないの? ティファ、くやしー! って思ったり、しないの?」
「……え……だって……」
「クラウド、カワイイカワイイ幼馴染みほっといて、知り合ったばっかりの女のコ、選んだんだよ? いいの?」
「だ……う……」
 「哀しいか?」と聞かれたら「わからない」と答えたかもしれない。けれど「寂しいか?」と聞かれたら、その答えはやっぱり「寂しい」だろう。そればっかりは否定しきれないところだった。
 その「知り合ったばっかりの女のコ」のところの忍者娘は……と言えば、クラウドを引き連れまわしてさんざん遊び疲れたのか、赤色獣であるところのレッドXIIIの、少し硬い毛皮を枕に、すやすやと実に安らかな寝息を立てていた。ホテルのラウンジだというのに床に寝転んで、枕役のレッドの方がよほど周囲の視線を気にしている始末だ。
「……で? 俺にどうしろと?」
 クラウドは溜息をついて『降参』というように両手を肩の位置まで上げて見せた。エアリスはそれを見て「ぬふふー」と笑う。
『あ……』
 ティファはエアリスのその笑みを見て、なんとも言えない顔をする。彼女がそういう笑いをする時は、決まって良くない考えを思い付いた時なのだ。もっともそれは、エアリス自身にとってはこの上もなく「いいかんがえ」だったりするのだけれど。
 でも、この場合の対象はティファではなくクラウドだ。だからティファは、さりげなく知らんぷりをした。
 もちろん、心の中で「クラウドごめんね?」と呟くのは忘れなかったのは、誉めていいと思う。
「時刻はまだ午後5時。まだまだこれからです、夜は。
 ショッピングモールは24時間営業してます。
 さて、何でしょう?」
「………………」
「………………」
「………………」
「…………………………エアリス、それじゃ何がなんだかわかんないと思う……」
「そうかな? ……じゃあ……ヒント1。昨日の戦闘でティファのホックが壊れてしまいました。新しいブラ……もがもが」
「ちょちょちょちょちょちょっとぉーー!」
 何を言い出すのだこの“困ったおねーさん”は!!
 ティファは顔を真っ赤にしてエアリスの口を押さえた。慌ててクラウドを見るが、彼は要領を得ない顔をして二人を見上げている。
 たぶん気付いていないだろう。この時ばかりはさすがのティファも、この無愛想な幼馴染みの青年の、壊滅的なニブさに感謝した。
「クラウド知らないでしょ? ティファ、胸でっかいから戦闘が激しいと……もがもが」
「それはもういいからっ! ……あ、あのね? 私達これから買物行くの。良かったらクラウドにも付き合って欲しいなぁーって思って……あ、忙しかったりそんな気分じゃなかったら、いいの。二人で行ってくるから」
「わかった」
「別に、寂しいとかそんなんじゃ……え?」
「いいよ。付き合おう」
「……あ……ありがと……」
 まっすぐ彼女を見つめる瞳に、ティファは頬がカッと熱く火照るのを感じた。きっとたぶん今の自分は熟れたリンゴみたいな顔をしてると思う。そう思った途端恥ずかしくなって、ティファは彼から目を逸らし、ラウンジの絨毯の柄をじっと見つめる。
「なあ、ティファ……」
「な……なに?……」
 彼がイスから立ち上がり、一歩彼女に近付く。
 ティファの子兎のように小さ…………大きな胸がどきんどきんと高鳴り、全身からぶわっと汗が噴き出た。彼の声は深く、それでいてどこか甘い。その声が間近で彼女を捕らえ、雨に濡れた子犬のように震える心を鷲掴みにする。
 彼の、汗の混じった芳(かぐわ)しい体臭が鼻腔に届いて、くらくらした。
「ティファ……」
「……あ……え…………?」
 こくっと喉を鳴らし、顔を伏せたまま彼のつま先を見る。
 顔を上げられない。
 胸が苦しい。
 ここから逃げ出したい。
 ティファは手に力を込めて、腕の中でじたばたと暴れているものをぎゅっと抑え込んだ。

 ………………え??
 暴れてる……もの?

「その……エアリス……真っ青だぞ?」
「んにゃ〜〜〜〜っ!?」
 ぐったりと顔面蒼白にした、可哀想なくるくる巻き毛の“ゆかいなおねーさん”を見て、ティファは慌てて彼女の口と鼻をいっぺんに押さえていた両手を離した。
「ぶはっ!!」
「ご……ごめんっ! ごめんねエアリス!」
 ぜひーぜひーぜひー……と息荒く呼吸するエアリスの背中を、ティファは優しく擦りながらひたすらに謝った。クラウドはその様子に、思わず口元を緩める。
「じゃんけん勝って嬉しいのわかる。けど、ティファ、盛り上がり過ぎ……」
「そ……そんなこと…………」
「あるよ。顔真っ赤だもん。もう、クラウド好き好き光線が……もがもが」
 女二人のひそひそ声は、鈍感なツンツンチョコボ頭の青年には聞こえなかった。
 ただ彼は、ここのところずっと暗く沈んでいたティファの、久しぶりに見せた明るい雰囲気を「よかった」と思っていたのだった。
「ところで、どこに行くんだ?」
「言ってなかった? 下着売り場」
「えっ!?」
 ティファはぎょっとして能天気な表情を浮かべるおねーさんを見た。
 にこにこと邪気の無い顔をしているが、冗談では無さそうだった。
「帰る」
 案の定、クラウドは踏み出しかけた足を戻し、ラウンジのソファに戻ろうとする。
 ……が、
「ティファのサイズ、知りたくない?」
「行く」
「正直でよろしい!」
 すっくと立って、エアリスと共に歩き始めた幼馴染みを、ティファはぽかんと口を開けて見送った。
「ちょ……ちょっとちょっとちょっと〜〜〜……」
 だが次の瞬間には、前よりもっと顔を赤くして、二人の“困ったさん”を追いかけたのだった。


         −おわり−

■■[THEM]『Piece.07』「いつまでも、いつまでも」〜あなたがだいすき〜■■

「2012/09/02 00:00」投下開始
「2012/09/09 00:00」完了
この記事へのコメント
無邪気なフリをするエアリスと周囲の反応……これは面白いかもしれない
Posted by 青玉 at 2012年09月09日 01:33
 私の中でのエアリスは、こんな娘(こ)です。
 無邪気なフリ……というか、本当に邪気は無いんですよ?

 エアリス大好きです。
 ティファとエアリスは月と太陽で、どっちも「クラウドがクラウドであることを自分で肯定するために必要だった女性」と思ってますし、ティファにとっても必要な女性だと思ってます。
 少々出来過ぎな女性ですが。
Posted by 推力 at 2012年09月10日 09:29
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