■感想など■

2012年09月22日

【ボクキミ】ユウ14

■■【14】■■

 それは日々のルーチンワークをこなすだけで精一杯となり、正常な判断力も、現状から抜け出すための算段をする余裕すらも無くしていくのと良く似ていた。労働基準法無視のブラック企業に勤める社蓄社員みたいなものだろうか。そこがどんなに非人間的で最悪な環境であろうと、置かれた状況と周囲から与えられる圧力、そして時折与えられる報酬と甘い言葉で、「その場所から抜け出すのは無理」「その場所から抜け出そうと考える事は悪」だという意識を植え付けられてそれに縛られ、ついには“現状を受け入れることが今の自分に出来る最良の選択”なのだと錯覚していくのだろう。
 だが、そんな状況もいつか破綻するのだ。

 そしてとうとう、決定的とも言える出来事が、当然のように起こった。

 12月19日、月曜日。
 終業式前日。二学期最後の日だった。
 明日から冬休みが始まる。
 明日から“学校の無い”日々が始まる。
 きっと「彼」から呼び出されるだろう。今までの土日と同じく、一日中、男達に“貸し出される”のだろう。
 毎日毎日、抱かれ、犯され、おもちゃにされ、あの嫌悪すべき強烈な快美感に狂うのだろう。
 そう意識するだけで気分が沈み、足取りも重くなった。
 だから、哉汰を誘った。
 久しぶりだった。
 久しぶりに、一緒に登校しようと誘った。
 今の自分には“哉汰分”が決定的に不足している。
 夜の魔力供給の時とは違う、太陽の光の下の“友情分”が決定的に不足している。
 そう思ったから。
 でも、登校途中で、自分を待っていた哉汰の顔を見るとたまらなかった。
 “きゅうん”と胸が痛くなって、涙が出そうになった。
 優也としての友情と、ウィッチ・ユウとしての気持ち(愛情?)が混然となって溢れ、男としてのアイデンティティがあやふやになっている事を改めて自覚してしまったから。

 暗い雰囲気に違和感を感じ、消沈したような顔の自分をおもんぱかったのだろう。哉汰は、いつにも増して饒舌だった。
 そんな哉汰を見やり、優也はひっそりと微笑んだ。
 夜空に光る三日月にも似た、控え目な光を瞳に湛(たた)えて。
 自分はこの人を、たった一人の親友を、ずっと裏切り続けているのだ。そういう意識が、自分から話題を懸命に繋げようとしてくれる哉汰に対し、懺悔の念を抱かせる。
「でも、なんだよな」
 不意に哉汰が声のヴォリュームを下げた。
 こんな時、彼はウィッチに関する事を話そうとしている。
 それがわかったから、優也はごく自然に“自分達の会話が周囲の人々の興味を引かないよう”プリズム・グラスを中心とした簡易的な魔術結界を展開した。
「最近はケガレの発生も少ないんだろ?」
「あ、うん……ちょっと前までは活発化してた節もあったんだけどね」
「ちょっとは休めてるのか?」
「え?」
「疲れてるんだろ? ここんとこ、委員会とか部活とか、細かい仕事が混んでて、前にも増してぼやっとしてる事が多いからさ」
「前にも増して……って、ひどいなぁ」
「お前がウィッチとしてこの町の人間を護ってるのは、俺が知ってる。他の誰が知らなくても、俺だけはちゃんと知ってる。だから、俺に出来ることは、何でも言ってくれ。何でもしてやるから」
「……何でも?」
「う……だ、だからって、アレは、その、ダメだぞ?」
「まだ?」
「まだ……じゃ、じゃなくて!」
「わかってるってば。カナちゃんがいいって思うまで、ボク待ってるから」
「お、おう」
 顔を真っ赤にして頬を掻く姿を見れば、彼もユウを全く意識していないということはないのだろう。
 事実、毎晩の魔力供給の時にも、彼の中でユウを抱きたい気持ちと、優也との友情を大切にしたい気持ちがギリギリの攻防を繰り広げているのだ。
 今だとて、哉汰の心は優也の体を本当に心配しているし、優也のためならなんだってしてやりたいと強く思っている。
 でも。
『カナちゃん……』
 優也の心が、ひっそりと涙をこぼす。
 自分が今までしてきたこと、されたこと、許してしまったことを思って。
『もう……遅いかもしれない……って言ったら、ボクのこと嫌いになる?』
 蜘蛛の巣に絡め捕られた蝶は、もう二度と飛び立つことはない。
 その絶望のビジョンに自分を重ね合わせてしまう優也の心には、いつの間にか忍び込んでいた「彼」の存在が大きく、重く居座ってしまっていた。
「ユウ、聞いてるか?」
「え? なに?」
 哉汰の声に、己の心に没入していた優也は弾かれるようにして顔を上げた。
「便所女の事だよ」
 ギクリと、した。
 息が止まるかと思った。

 『便所女』

 それは、ユウが再変身した黒髪のモデル姿の事を、哉汰や他の生徒が話題にする時の呼び名だった。
 女子生徒は嫌悪と侮蔑の色を隠さず、男子生徒は興味と好色の色を浮かべる、変態女の呼び名だった。

 誰とでも寝る女。

 小便するように気軽に膣内で射精される女。

 公衆便所の便器にも劣る女。

 ビッチ。

 売女。

 淫売。

 精液便所。

 様々な卑語で揶揄される、最低最悪な女。

「最近、いろんな所で目撃されてるらしいんだけど、それがどこの誰なのか、正体は誰にもわからねーんだと。C組の倉本とかバスケ部の篠崎とかも調べてるみたいだけど、そもそもどこからやってくるのかもわからないってゆーから、都市伝説みたいな感じになってるよな」
「……そう……」
「命を賭けて町のみんなの生活を、命を護ろうとしているユウのようなウィッチもいれば、あんな風に気持ち良ければいいって感じに人の迷惑を考えない、人間の屑のような女もいる。まったく……そんな人間でも、ウィッチは護らないといけないなんてな。あんな人間を護っても、それでもそれを使命として誇れるか?」
「……ッ……」
「ああいう人間がケガレの被害に遭っても、助けてやる必要なんか無いんじゃないか!?」
「そんなこと言っちゃ駄目だよ!」
 思わず声を上げた。
 そして声を上げてしまった自分自身に、優也は驚いていた。
「なんだよ!? お前、あんな便所女の肩持つのか!?」
「で、でも何か事情があるのかもしれないし」
「事情? どんな事情だ? 所構わずいろんな男とセ……ヤってるような女だぞ? ロクなもんじゃねーだろ!?」
 登校途中で、周囲には他の生徒もいる。
 いくら魔術結界を展開しているとはいえ、大きな声は注目を集めるのには十分だった。
 優也は思わず首をすくめ、周囲をそれとなく見回した。

 大勢の生徒による一斉登校では、人の流れまるで川のようだ。
 この中には優也がウィッチ・ユウだと、既に知っている者もいるかもしれなかった。
 それを思うと身が竦(すく)む。
 休み時間や授業中に呼び出され、インスタント・セックスで抱かれる際には、相手に変身するところを見られないよう細心の注意を払っていた。目の前で変身するところを見せるように強制された事もあるが、「彼」以外に対しては一度も応えた事はない。もちろん、たとえ見られたとしても、それが瞬間記憶であれば記憶改竄も不可能ではないし、その程度であれば脳に障害を残すこともないから、いっそ術式を施しても良かったが、もうそれをしても無駄なくらい何回も呼び出されていたし、いつどこで見られていたかもわからない状況では気にするのも馬鹿馬鹿しくなろうというものだ。
 だから、全校生徒のうち、ユウにとっては少なくとも5人以上は、自分がウィッチ・ユウだと知っている可能性があると考えていた。
 その「5人」というのは、「彼」以外で最初にユウをオモチャにした「5人」の事だ。「以上」だと思ったのは、11月12日に10人以上に中出しセックスで弄ばれた時の相手が、それを知っていたかもしれないと思うからだ。もちろん、それよりもっと多くの生徒が、ウィッチ・ユウと優也が同一人物だと知っている可能性もあった。
 例の裏サイトでは、ウィッチ・ユウの正体に関しては一切触れられていない。
 サイトにおいては、当然「彼」から厳重な箝口令が布かれていたし、もともと彼のマニア仲間のコミュニティに端を発しているのだから、「彼」に不利益になる行動を彼らが取ることはない。「彼」もそう言って約束してくれたし、それに関してだけは「彼」も信用出来ると思っていたし、何より、それを信じるしかないのが現状だった。
 それに裏サイトに集まる者達は、性処理さえ出来れば対象がどんな存在だろうとも何ら問題を感じない連中ばかりなのだから、記憶改竄を意識した事も無かった。
 ただ、優也はそう考え、行動していたが、その思考自体が既に普通ではなく、ウィッチとして守らなければならない秘密の一端を漏洩してしまっているという事から、無意識に目を逸らしているに過ぎなかったのだが。

 優也は、少なくとも自分達の周囲に自分を抱いた男子生徒がいない事を確かめると、哉汰の袖を引っ張り、人の流れから少し外れて歩いた。
「そんな風に……あ、頭から決めつけたら、可哀想、だよ……」
 声が震える。
 心が痛んで、苦しかった。
「何が可哀想なもんか。決めつけるも何も、実際に見た奴らもいるし、俺も……」
「カナちゃんも見たの!?」
 優也は、頭から一気に血の気が引くのを感じた。
 急に足元がおぼつかなくなり、どこかふわふわとした雲でも踏んでいるかのように、現実感が乏しくなる。

 ああ、そうか。

 あの時か。

 いつかの夕方、商店街で路地裏から出てきた時にはち合わせた時の事が、鮮やかに優也の脳裏に浮かび上がった。
 お尻を叩かれながら膣内で射精された後、アナルにバイヴを挿し込まれたまま街中を連れ歩かれた、あの日、あの時か。
「あ、いや、俺は別に、その……す、好きで見たわけじゃねーぞ?」
 狼狽えて言い訳じみたことを呟く、哉汰の瞳が哀しかった。

 言ってしまおうか。

 キミの言ってる「便所女」はウィッチ・ユウなんだよ……って。

 その「人間の屑のような女」は、ボクなんだよ……って。

 ユウは血の気の引いた顔で、自分の足元を見ながら懸命に歩いた。
 そうしないと、今にもしゃがみ込んでしまいそうだったから。
「と、とにかくだ、俺はお前が必死になって戦ってるってのに、ああいう風に男とやりまくって好き勝手に生きてる淫乱ビッチは我慢できねーんだ」
「淫乱……ビッチ……」
「ああそうだ。ああいうのを公衆便所とか肉便器とか言うんだよな。気持ち悪い。ああいうのが同じ町にいるとか、吐き気がする。いっそ、ああいう便所女こそ、ケガレにやられて死ねばい」
「カナちゃん!!」
「うわっ!?」
 思わず声が出た。
 唇が震え、握り締めた手の指の関節が白くなっていた。
 今の声量と、激しい動揺で魔術結界が崩れ、周囲の生徒達の驚いたような視線が集まる。
「……なんだよ?」
 周囲の視線が気になったらしい哉汰に腕を引かれ、優也は道の端へと移動した。
 イラついているような、訳が分からず混乱しているような、眦(まなじり)の上がった哉汰の顔を、この時、優也は初めて「怖い」と思った。
 だから、言えなかった。
 とても真実など、言えようはずもなかった。
「それ以上、言わないで」
 絞り出すような声で、それだけを言うのが精一杯だった。
「え?」
「お願いだからそれ以上、言わないであげてよ」
「なんでだ? なんでお前がそんな」
「死ねばいいなんて……その人が可哀想だよ。カナちゃんにそんな事言われたら、その人が、可哀想だよ。カナちゃんにそんな風に思われてるって知ったら、その人、きっと死んじゃう。哀しくて、死んじゃう。カナちゃんだけは、そんな事言ったら、だめだよ……」
 胸の想いを言葉にしながら、どんどん苦しく、悲しく、辛くなってきて、涙で視界が滲んで哉汰の顔がかすむ。
「……なんでお前が泣きそうになってるんだよ」
「だって、ボク……」

 もう、言ってしまおうか?

 だが、そう思った途端、さっきの哉汰の言葉が耳に鮮やかに蘇った。

 『男とやりまくって好き勝手に生きてる淫乱ビッチ』

 『公衆便所とか肉便器とか言うんだよな。気持ち悪い』

 『同じ町にいるとか、吐き気がする』

 『いっそ、ああいう便所女こそ、ケガレにやられて死ねばいい』

 優也を思いやるが故の、ウィッチ・ユウを護りたいと思うが故の、友情と義憤から発した哉汰の純粋な気持ちが、そのまま優也を責め苛み、刃となって傷付けた。
 俯いた優也は地面を見詰めながら制服の胸元を右手で掴む。
 苦しくて哀しくて辛くて、息が出来なくなりそうだった。
『カナちゃん……』

 もうだめ。

 死んじゃう。

 ほんとうに死んじゃう。

 ボクはただ、カナちゃんを護りたいだけなのに。

 カナちゃんの親友でいたいだけなのに。

 カナちゃんと一緒にいたいだけなのに。

 想いは溢れ、血を吐くような慟哭で胸が裂けてしまいそうだった。
 そして、涙の滲んだ瞳を上げ、優也は哉汰の袖を掴んだ。
 その時だった。
「ういっすー! お? どーしたー?」
 どこか気の抜けたような声に、優也は脊髄反射で背筋を伸ばした。
 ぎゅっと目を瞑り、身を堅くする。

 「彼」だった。

 心臓が“バクバク”と怖いくらいに跳ね回り、“ざあっ”と血の気が引き、全身に汗がどっと吹き出る。
 急激な肉体反射に、脳がパニックを起こしていた。
 つい数時間前まで、ユウとなって汗で湿ったベッドに組み伏せられ、腰を掴まれながらお尻を責め立てられていた生々しい記憶が蘇ったのだ。「愛している」と囁かれ、耳たぶを甘く噛まれながらおっぱいを揉まれ、乳首を“くにくに”と捏ねられながら膣奥に精液をたっぷりと射精されたあの恍惚は、今は毒となって優也の全身に回っていた。
 “ぞくぞくぞくぞく……”と、腰から甘ったるい快美感が背筋を這い上がり、優也は身震いして息を止めた。
 ウィッチ・ユウの時に無理矢理植え付けられた穢れた快感が、男の姿の優也の全身を支配しようと暴れまわり、快楽中枢からのフィードバックが、“今の自分にはない器官”の代わりに“今の自分にしかない器官”のスイッチをノックする。
 股間の、普通サイズの童貞ペニスがたちまち硬度を増し、パンツの中で“ぐぐぐっ”と立ち上がった。
『あぁっ……ダメ……ダメ……』
 女の肉体反射が男の肉体反射で代用出来るはずもなく、優也の脳は更なるパニックを起こし、眩暈と吐き気で今にも倒れそうだった。
 哉汰の顔を見られない。
 哉汰は気づいていない。
 気づいていないはずだ。
 「彼」は絶対に言わないと約束したし、哉汰に話すと自分を手放す事になるのだから、それは信じなければ。
 だから大丈夫。
 大丈夫。

 哉汰には、気づかれていない。

 そう思うのに、目の前で会話を始めた2人を見ていられなかった。
「今日はガッコ来たんだな」
「まあな。終業式くらいはなー」
「お前、よくそれで退学にならないよな」
「そこはほら、人徳? ってやつ?」
「自分で言うな」
 彼らの言葉が耳に入っても頭に入ってこない。
 理解したいのに、出来ない。
「ボ、ボク、先に行くね?」
 こみ上げる吐き気をこらえながらそれだけを哉汰に告げると、優也は逃げるようにしてその場を離れた。

§         §         §


 その日は、終業式前で半日授業なのに、休み時間のたびに呼び出された。
 人目を避けて変身し、物質透過で壁をすり抜けて最短距離で指定の場所に向かった。

 1時限目と2時限目の間の10分休憩。
 特別教室練の男子トイレの一番奥の個室で、2人の男に立て続けに尻を抱かれた。

 2時限目と3時限目の間の10分休憩。
 体育館倉庫で、3人の男に精液を流し込まれた。

 3時限目と4時限目の間の10分休憩。
 化学準備室で、2人の男に尻を抱かれた。

 どれも、セックスそのものより、精液を膣内に流し込む事だけを目的にしたかのような、事務的で機械的で刹那的なインスタント・セックスだった。普通の女であればそんなセックスに快美感や充足感など感じないのだが、ユウはそれらを強烈に感じ、酩酊した。それが性変転(トランス)ウィッチ独自の体質なのか、正パートナーからのものではない性遺伝子及び魔力供給による魔力回路への過負荷が及ぼす作用なのかは、もうユウ自身にもわからなくなっていたが。
 変身して、壁をすり抜けてトイレの個室や体育館倉庫や科学準備室に入る。そこで待ち受けていた男から真っ赤なチョーカーを受け取り、“自分で首に巻く”と、男が「ルーン」を唱える(術式起動の魔術言語は単純化され、既にずっと以前から特別な韻を踏まなくても、誰でも起動出来るよう、特殊改良されていた。「彼」が魔術言語の編成・改良を行えるはずがないため、「彼」の背後には魔術知識のある者が存在しているのは明白だったが、それを突き止める術はユウには無かった)のを耳にしながら、浄水槽や壁に手を突いて、ミニの三重フリルスカートを捲り上げる。ベビーピンクのTバックパンティは、自分で脱ぐ事もあるし、脱がない事もある。右脚だけ抜いて、くるくるっと手早く左足首に巻き付けるのにも慣れた。キスはするが、最初の数十秒だけだ。その後は、お尻の中に顔を突っ込まれて、直接舌と口を付けてあそこをべちょべちょに嘗められ、しゃぶられる事もある。でも大抵は唾とかローションを“べちょっ”と付けられて、指で膣内まで塗り広げられ、無理矢理に濡らされる。
 そしてすぐに挿入。
 腰を掴まれ、後からおっぱいを揉まれたり、乳首を摘まれたり引っ張られたり抓られたり捏ねられたりしているうちに、お尻に下半身を叩き付けていた男子生徒は大抵、膣奥深くで射精する。その頃にはもう意識は朦朧としていて、立っているのがやっとだ。事が終わると、再び壁を透過して、人目の無い場所で優也に戻り、教室に戻る。ほとんど、その繰り返しだった。
 その場にいた男が全員膣内で射精する事もあるが、膣から溢れ、太腿まで垂れ落ちて“べとべと”になった精液も、優也に戻ってしまえば消えるのだから平気だった。避妊具もアフター・ピルもティッシュも脱脂綿も消臭スプレーも香水も必要無い、インスタント・セックスのために誂(あつら)えたような体だと、優也は思った。
 そこには、必要なことを必要なように必要なだけこなす、まるで“プロ”のような冷えた心しか無かった。

 でも。

 4時限目の授業中に後の席から回ってきた手紙に、その心が震えた。
 それは哉汰からのもので、女子達が好んでするような、ノートの切れ端で作った手紙だった。そこには彼のちょっととんがったクセのある字で「今朝、なぜ泣いたのか」とか「俺が悪いなら謝る」とか書かれていたが、悪くない哉汰を責めることも相談する事も、ましてや真実を打ち明ける事も出来なくて、返事はしなかった。
 でもその手紙は、丁寧に畳んで制服の内ポケットに大切にしまっておいた。
 冷えた体の中で唯一、そこだけがほんのりとあたたかい。
 そんな気がした。

 そして、4時限目終了とほぼ同時に始まったホームルームの最中に、「彼」から命令があった。
 また、特別教室練の男子トイレだった。だがそこには、変身してから来るのではなく、優也の姿のままで来るように書かれていた。他には誰もいない。「彼」だけが一人で待っているとも、書かれていた。

 ──セックスさせられるのではないのか。

 そう思い、ほっとしている自分と、どこか落胆している自分の両方を見つけ、優也は唇を噛んで滲んだ涙を人知れず拭った。

§         §         §


「ボク、園芸部の仕事、あるから……」
 ホームルームが終わり、担任の曾根崎が教室を出て行き、クラスメイトも三々五々退出していく中、何か言いたげに自分の席までやってきた哉汰へ“ぼそっ”とそう言うと、優也は鞄を掴んで足早に教室を出た。
 きっと哉汰が後を追いかけてくる。
 そう思ったから、殊更に歩みを早め、彼の視界に入らないよう、認識外に身を置くように特別教室練の男子トイレへのルートを辿った。
 数分も経たず、また哉汰にも見つからないよう男子トイレに辿り着くと、そこには「彼」と一緒に数人の男達が待ち受けていた。どれも見たことのある顔で、一度はインスタント・セックスでユウを抱いた男達だった。
「え?」
「遅いよユーヤ。いつも2分以内に来いって言ってんじゃん?」
 手に持った鞄を奪われ、優也はニヤニヤと笑みを浮かべる「彼」を信じられない思いで見詰めた。
「キミだけじゃないの!?」
「予定が変わったんだよ。よくある事じゃん」

 ああ、そうか。

 また、騙されたのか。
 この男が自分を騙すことなんて、今まで何度もあったのに。
 どうして自分はそれを信じてしまったのか。
 腕を掴まれ引き込もうとする「彼」を見上げ、優也は泣いているような、笑っているような、奇妙に歪んだ表情を浮かべた。


 「彼」は優也をトイレの一番奥の個室に押し込め、男達の目の前でウィッチ・ユウに変身させた。そして彼女の首に慣れた手つきで真っ赤なチョーカーを自ら巻き、「ルーン」を唱えたのだった。3人の男は、優也の変身に感心はしたが、驚愕するまでには至らなかった。事前に「彼」から話を聞いていたか、既に「彼」のコミュニティでは周知の事実となっているのかもしれない。これでは、あの裏サイトでウィッチ・ユウの正体は秘密にしているという「彼」の言葉も、到底信用出来ないのだが、それももう今更のような気がしてユウは問うのをやめた。
 そうして「彼」は、後に残った3人の男に任せて、自分は早々にトイレから出て行ってしまったのだった。
「じゃあ、さっさと始めるか」
「あっ……」
 声が、出た。
 「彼」が「ルーン」を唱えたのに声が出るということは、つまりは「そういうこと」か。
 案の定、3人のうち1人が手にカメラを構えていた。チョーカーの蒼い魔石による不可視化の魔法障壁のみを無効化し、声は消さないまま、撮影しようというのだ。それは既に、何十回と繰り返されたことだった。
 そうして撮影された画像がどう使われるのか、ユウは知らない。そもそも撮影されているのだと知った時には「彼」に猛抗議もしてみせたが、どんな抗議も嘆願も「彼」の前では全て無意味なのだと思い知ってからは、もうどうでもいいと捨て鉢な気持ちにもなっていた。
「どこまで知ってるの?」
「おお、やっぱ声まで変わるんだなぁ」
「だろ? 色っぽい声だよな」
「そういや、ちょっとアレに似てね? 何だっけあの声優」
 狭い個室の入り口を塞ぐようにして立つ3人は、ユウの問いかけを無視して口々に勝手なことを話している。
 今の会話で、3人のうち一人は確実に『変身したユウの声を聞いた事がない』のだと知れた。
「ボクがウィッチだって、ずっと前から知ってたの!?」
「朋坂の顔浮かぶから、その話はナシにしようぜ?」
「俺達、お前が本当は男だとか、そういうのは興味無いんだ」
「時間無いんだから、用意しながらな?」
「んあっ……」
 男の一人が何の抵抗も無くユウの首に手を回し、引き寄せると、唇を貪り始めた。たちまち全身が“ぞくぞくぞく”と震え、子宮が“きゅうん”と啼く。ビスチェ風コスの下で尖り始めた乳首を、伸ばした手が摘み、押し込み、“ぐりぐり”と捏ねた。

 ユウは朦朧としたまま、蓋をした洋式便器の上に座らされ、Tバックを半端に脱がされたまま挿入された。
 男は彼女の素晴らしく長く、美しく、白く、すべすべとした両脚を肩に担ぎ、その脹ら脛や足首を噛みながら、一心不乱に腰を振った。
「んっ…んっ…んっ…んっ…あんっ…んっ…あっ…んっ…んっ…」
 懸命に声を上げまいとするユウは、便器の上で体を支えながら唇を噛んだ。
「なんだよ。出せよ声。せっかく色っぽい声なんだからよ」
「んんぅうっ!!」
 “どちゅっ”とひときわ大きなストロークで根本までペニスを押し込み、そのまま“ぐりぐり”と腰を揺する男にユウはしがみついて涙をこぼした。
「イクぜ」
「〜〜!〜〜ッ!!」
 イヤイヤと首を振るユウに構わず、男は降りてきた子宮口をノックするようにペニスを抽送し、そのままのイキオイで膣内で射精した。
「!!!〜〜〜〜ッッッッッッ!!!!」
 「あ」の形に口を開いたまま、ユウは硬直して何度も体を痙攣させる。意識が白濁し、強烈な浮遊感に泣きじゃくりそうだった。
「イッた? マジで?」
「そうそう。これこれ。ロクな愛撫とかしなくても中出しすりゃ確実にイッてくれんだからお手軽だよな」
 ユウを二つ折りにして口付け、舌を堪能するように吸いながら、最後の一滴まで絞り出すように腰を揺すっていた男は、彼女の両足を肩から下ろすとペニスを抜き、後の男と交代しながらそう言い放った。
 挿入から射精まで3分経っていない。正にインスタント・セックスだった。
「うげぇ……お前、病気とか持ってねーだろうな?」
 膣孔から“どろり”と垂れる精液を見て、次の男が顔をしかめる。
「今更何言ってんだよ。俺達穴兄弟なんだぜ? 今まで何回ヤッたと思ってんだよ」
「言ってみただけ……だっつーの!」
「あああっ!」
 ユウは泣くような、喘ぐような声を上げた。
 “ずぶぶ”と次の男が入ってくる。肉をかき分け、精液を押し込め、小便するような気軽さで射精するために。
「んんんっ……んっ…んぅっ…んっ…うんっ…んっ…」
 すぐに始まった抽送に、体が揺れ、おっぱいが揺れ、頭が揺れ、意識が揺れ、全ての価値観や悲しみや苦しみや後悔や懺悔が揺れる。
「やっぱりイイな。最高だ。穴だけでも十分だぜ」
 男の賛美を耳にしながら、ユウの心は急速に冷え、そして凍り付いていった。

 3人目の男は、ユウの膣内で射精すると、彼女に伝言を残してからトイレを出て行った。
「すぐにケータイを見ろってさ」
 「彼」が指示した伝言なのは明白だった。
 そして、ついでのように告げられた言葉に戦慄した。
「北沢がお前を探してるぜ。すぐそこまで来てる」
「ッ!?」
 “ゾッ”とした。
 酩酊したような快楽の残滓が一気に吹き飛ぶ。
 ユウは気だるい体を起こして、膣内の精液がこぼれるのも構わずTバックを引き上げ、ふらつく脚で立ち上がった。
 男の誰かが消毒剤か芳香剤を撒いたのか、トイレ内は精液やユウの匂いなどわからないほどになっている。これなら、万が一にも哉汰がここを訪れたとしても、自分がここで“男達とセックスしていた”なとは思わないだろう。

 ──セックス。

 ああ、そうだ……。
 自分は、哉汰が探している間、ずっと男達とセックスしていたのだ。
 しかもそれは、今日に限ったことではなく、今まで何度も何度も繰り返してきたこと。
 そして、これだけで終わるわけでもないこと。
『急がなきゃ……』
 ユウはそう思いながら、「彼」からのメールを確認する事だけを考え、洗面所の上に置かれていた自分の鞄を手にした。
「あ……」
 ぶるるっと腰が不意に震える。
 “ぶぷっ”と赤ん坊のげっぷのような音がして、膣孔から3人分も流し込まれた精液が溢れ、太股を伝って垂れた。時間が不十分で、吸収するまでは至らなかった分の精液だった。
「うぅ……」
 気持ち悪い。
 哉汰のものでもない精液が、どうしようもなく気持ち悪い。
 その時、
「……ッ!?」
 ユウは慌てて壁を透過し、校舎の外へ出た。
『カナちゃん……』
 近付いてくる哉汰の気配を感じながら、たわわなおっぱいごと自分を抱き締める。
『カナちゃんは、ボクが護るから』
 もはや、呪文のようになったその言葉を胸に、ユウは空へと飛び立った。
この記事へのコメント
呪文……
Posted by 青玉 at 2012年09月22日 00:39
おまじないとも取れるかもしれない・・・といいなあ。
Posted by アンディ at 2012年09月22日 03:13
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