■感想など■

2012年04月26日

【ボクキミ】33

■■【33】■■

 クリスマスが過ぎ、年の瀬が迫っても、哉汰は毎日ネットカフェに通い詰めた。
 これではまるで、部屋に引き籠もって日がな一日、具にもつかない非生産的な議論や他人への中傷に明け暮れる屑ニートと同じだ。
 それでも哉汰は、それこそ寝食を忘れてアダルト系掲示板巡りに没頭していた。
 何かとても大切なものが手の指の隙間からすり抜けてしまいそうな、ひりつくような焦燥感と、もう既に何かが失われてしまったような喪失感、そして、何をしても無駄なんじゃないかと諦めてしまいたくなる虚脱感が、哉汰の心を蝕んで、ネットでの情報収集へと狂ったように固執させていた。
 『クロウ=アイズ』での書き込みも膨大になり、他にも存在するウィッチ・ファンサイトの常連にもなった。ライトからディープまで硬軟取り混ぜての会話術も身に付けたし、こちらの情報を嘘にまぶして御馳走に見せかけるテクニックも身に付けた。
 時にはチャットで数時間もウィッチの話で盛り上がることもあった。

 そこで学んだのは、総じてウィッチ・ファンはゲスばかりという、ユウが聞いたら心底落胆するような事実だった。

 特にアングラ系サイトの関連者には、ウィッチを犯す事ばかり考えているファッキンな気違いが多かった。
 たとえば、容姿の美しいウィッチのものであれば、その涙も唾液も汗も尿も嘗めたい、大便さえも食べてみたいと願うスカトロジー愛好者、女性ウィッチを殺して切り刻んで乳房を食べることを「夢」と嘯く猟奇変質者、四肢を切り取って達磨にし、家で飼って精液便所にするのを夢に見るという倒錯愛者などで溢れていた。
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2012年04月23日

【ボクキミ】32

■■【32】■■

 クリスマスイブの朝、哉汰はカナケンに協力を求めた。
 もちろん、この街のウィッチが「ユウ」という名前だということも、そのユウがあの優也であることも、そして自分がそのパートナーであることも、全て伏せて、だ。
 カナケンは学校では有名な筋金入りの「ウィッチ・マニア」だ。
 財力も人脈も親あってのものとはいえ、それを最大限に活用してウィッチを求める思い切りはハンパない。油断すれば、少しの情報からでも隠しておきたい真実へと辿り着いてしまう危険が十分にあった。
 だから今まで哉汰は、なるべく自分からはウィッチ関連で彼と積極的に関わるのを避けていたのだが、ここに至ってはそうも言っていられないと思ったのだ。
 とにかく優也の行方を知りたかった。

 どこにいるのか。

 なにをしているのか。

 ウィッチ・ユウとしてケガレと戦っているのか。

 なぜ魔力補給に来ないのか。
 来られないのだとしたら、それはどうしてなのか。

 カナケンにはただ、この街のウィッチの情報を求めた。
 以前も、二度三度と情報確認や収集に付き合わされたのだ。それを思えば、その後、情報はどうなったのか、ウィッチの存在を確かめられたのか、聞いても何ら不自然ではないはずだ。
 そう思ったのだ。
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【ボクキミ】31

■■【31】■■

 どうしてあんな事をしてしまったのか。

 どうしてあんな事を言ってしまったのか。

 あそこまでするつもりはなかったし、する必要も無かったはずだ。

 一晩寝て朝目覚めると、哉汰は昨晩の自分の行為を思い出して布団の中でゴロゴロとのたうち回った。
 昨日とは打って変わって、まるで憑き物が落ちたように、後悔と懺悔の想いが胸を満たしたのだ。
 どう考えても、昨日の自分のしたことはやりすぎだった。
 罵倒し、肉まんをぶつけ、心の中で何度も「死ね」と叫んだ。
 いつもの自分ならあんなことは絶対にしない。
 たとえ相手が、あの唾棄すべき「便所女」だとしても、だ。
 あれはもう、本気で何かに取り憑かれたとしか思えなかった。
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2012年04月16日

【ボクキミ】30

■■【30】■■

 深夜の0時過ぎに街を走るのは久しぶりだった。
 いつかのケガレ退治の見学以来だろうか。
 哉汰は完全防寒に身を固め、親にバレないように家を抜け出して、自転車を駆って2区画先の優也の家へと走らせた。
 電話もメールも通じない上、ユウの方からも来ないとなると、残るはウルフに連絡を取るか、直接優也の家に行くしかない。そしてウルフへの連絡方法を哉汰が知らない以上、残るは一つだ。
 哉汰はそう思い、自転車を走らせたのだ。
『真っ暗だなー……』
 さすがに真夜中過ぎのため、電気の点いている家はまばらだ。20メートル毎に道を照らす街灯の光だけが頼りだった。
 その中をひた走り、数分後には優也の家の前にいた。
 この街をずっと護ってきたウィッチ親子が住むには少々平凡過ぎる建て売り住宅も、今は玄関の電灯が消え、家中が寝静まっているようだった。
『さすがにもう寝てるよなー……』
 そう思い、帰ろうとした哉汰の目に、玄関脇のポストに突っ込まれた大量の新聞とチラシの束が入った。
「え?」
 もう一度、道路に出てから改めて家全体を眺めると、2階の“雨戸”が、全て閉まっていた。裏に回って中庭を覗くと、1階の雨戸も同様に全て閉まっている。
「まさか旅行……じゃないよな」
 玄関脇のポストの中身は、ここ二日三日の量ではない。少なくとも十日分以上はある。
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2012年04月12日

【ボクキミ】29

■■【29】■■

 いつしか日は過ぎ、12月も後半に差し掛かろうとしていた。
 この一ヶ月、思えば優也とは、学校にいる間はロクに話すことも出来なかった。
 だから、珍しく一緒に登校しようと優也の方から誘われた時、哉汰は純粋に嬉しかった。
 本当に、ただ、嬉しかったのだ。
 今日、12月19日は月曜日で、二学期最後の日だった。
 明日は終業式である。
 そして、待ちに待った冬休みが始まる。
 学校が無い分だけ、もっとユウの力になれるかもしれない。
 いや、なりたい。
 それは登校途中、そんな想いで始めた会話だった。
 少なくとも最初はそうだった。
 だが……。
「なんだよ!? お前、あんな便所女の肩持つのか!?」
 命を賭(と)して人々の生活を、日常を、命を護ろうとしているユウのようなウィッチもいれば、快楽に溺れて人の迷惑を考えない人間の屑のような女もいる。
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2012年04月09日

【ボクキミ】28

■■【28】■■

 気付けば、いつしか哉汰の周囲でも、真っ赤なチョーカーを首に巻いた、あの黒サングラス女性の目撃話が他の生徒の話題に上ることが増えていた。

 曰く、
 混雑したバスの後部座席で、おっぱいを出して隣の男に吸わせていた。
 繁華街のオープンカフェで男とキスしていた。それも軽い挨拶みたいなものじゃなくて、舌を絡ませ唾液を交換するような、ディープでエロいベロチューだった。
 横断歩道を前から男連れで歩いて来たと思ったら、急に男に胸元を開かれて、ノーブラのおっぱいがこぼれ出るのを見た。
 公園の公衆トイレから多くの人間の気配と男の呻き声が聞こえて、不審に思いつつ外で見ていたら、やがて複数の男達がぞろぞろと出てきて、その後少ししてからコートを着たあの女が出てきた。彼らの姿が見えなくなってからトイレに入ってみると、床にはティッシュや使った後のコンドームが散らばり、あの男女の情事特有の、すえた臭いがした。
 ショッピングモール内にある食品スーパーの商品棚の陰で、男に手マン(手で性器を愛撫)させていた。それに気付いた男子生徒は、女のあそこを弄っていた男に「貸してやろうか?」と言われ、怖くなって逃げたらしい。
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2012年04月05日

【ボクキミ】27

■■【27】■■

 その夜、ユウは初めていつもとは違う姿でやってきた。
 あの露出度のやたらと高いエロコスチュームはそのままらしいのだが、上にすっぽりと上半身から太腿までを覆う、ポンチョのようなものを羽織ってきたのだ。
 本人曰く、今日の相手はいつになく強力な奴で、魔力が枯渇して治癒がうまくいかず、胸元にひどい痣が残ってしまったのだという。
 見せてみろと哉汰が言うと、ユウは慌てて彼を押し止め、いつもの魔力補給を行えばすっかり元通りになるから大丈夫と言った。
「カナちゃんが心配するといけないから、こうやって隠してきたんだよ?」
 さすがに痣が恥ずかしいから電気は消してね、とユウは言って、いつもの“ほにゃっ”とした笑顔で哉汰を見つめた。
 今まで一度だって「電気を消して」とか言ったことないのに。
 だが哉汰が気になったのは、そんな事ではなかった。
 ユウの髪の色が、昏い赤……まるでザクロかアメリカンチェリーのような色になっていた事だった。
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2012年04月02日

【ボクキミ】26

■■【26】■■

 その次の日曜日。
 哉汰はまたしてもカナケンに呼び出されて、怪しい目撃情報の確認に奔走していた。
 今日のポイントは、街の東部を流れる比較的大きな河の上流にある水門付近だった。その近くには森林公園があり、シーズンの休日には家族連れが多く集まる憩いの場所でもあった。
 だがオフシーズンの上、日曜とはいえ11月も半ばになれば、人もまばらで証言など取りようもなく、たまに出会うジョギング最中の人とか、犬の散歩中の人などには、あからさまに奇異な目で見られたり無視されたり、時にはあからさまに警戒されたり……と、散々な目に遭った。
 そもそも「この近くでウィッチを見かけませんでしたか?」と直球勝負で聞くのはどうか。
 いくらウィッチの存在が公然に認知されていたとしても、いきなりそんな事を聞かれて答える人もいまい。
「11月13日、日曜日……午後5時25分。目撃例……ゼロ」
 一応、カナケンのケータイに、頼まれた「報告」をメールしておくことにする。
 とりあえず今日の追跡調査の約束は午後3時から5時半だから、これが最後の報告になるだろう。
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2012年03月29日

【ボクキミ】25

■■【25】■■

「じゃあ、いい?」
 そう言ってユウが躊躇いもなく哉汰のズボンとパンツに手をかけた。
「ちょ、ちょっと待て、自分で」
「だめ」
 抵抗する間も無かった。
 ずるんと膝まで引き下ろされ、さっきからガチガチに勃起しっぱなしのアレがまるでバネ仕掛けの玩具みたいな感じに“びょん”と勢い良く跳ね上がる。
「わお」
「わお、じゃねーよっ!! 待てって言ってるだろうが!」
「待てない。なに? カナちゃんは男なのに一度決めたことをいざとなったら無しにするの?」
「そ、そうじゃねーよ。そうじゃねーけどさ」
「じゃあなに? 恥ずかしい?」
「あ、当たり前だろ……」
「うーん……じゃあ、やっぱり最初に魔力の方からもらっとくね?」
「な……うむぅっ!?」
 「じゃあ」って何だ。
 そう聞く間もなく、首と頭をガッチリと両手でホールドされ、哉汰は有無も言えずにキスされた。のしっとユウがかけてくる体重に耐えるために、アレを露出されたまま両手でとっさに体を支える。
 すぐに、むちゅ、むちゅ、むちゅ……と唇も舌も何もかもを吸われ、嘗められ、しゃぶられて食べられてしまった。
 そして……
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2012年03月26日

【ボクキミ】24

■■【24】■■

 カナケンのウィッチ捜索は結局、それから3日間、木曜の夜まで続いた。

 結果は惨敗である。

 最初の日、夜中に魔力供給のため訪れたユウに直接聞いてみたら、やはり全く見当違いの場所を探していたらしい。だから後の2日は、いわばカナケンに対する義理みたいなものだ。
『あの黒いサングラスの女性をまた見られるかもしれない』
 確かにそんな淡い期待も抱いていなくはなかったが、さすがにそれらしい女性は見つけられなかった。
 ただ最後の日、窓が半分だけ開いたアパートを見つけた時の事だ。
 そのアパートの二階端っこの一室で、腹の出た中年の男が布団の上で女の尻を両手で掴んで、バックから激しく責めているのを、半分開いた窓の、真横からのアングルで見た。
 確かに女のものであろう、むっちりとした汗まみれの白い尻が、中年男の腰とぶつかるたびに波打ち、震え、めちゃくちゃエロかった。
 おまけに抜き差しされる男の男根は太くて黒っぽいのに、白濁したものでぬらぬらと光っていた。
 それは実に、色気をたっぷりと纏った、脂の乗った“たまらない尻”だった。
 おっぱい星人の哉汰でもそう思うのだ。
 尻フェチが見たら涎を垂らしそうだった。
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2012年03月22日

【ボクキミ】23

■■【23】■■

 11月3日木曜日から7日の月曜日まで、ユウは毎日、夜になると哉汰の部屋を訪れた。
 いつもキスと乳吸いはセットになっていて、月曜日の時点でキスは12回目、乳吸いは8回目にもなっていた。
 最初の頃からは考えられないような回数である。
 慣れていく、のだろう。
 ユウが自分(の魔力)を求めるように、自分もユウから与えられる快楽を求めている。
 哉汰はそれをもうハッキリと自覚していた。


 そんなある日の夜、哉汰はカナケンに誘われて、駅西の繁華街にあるビルの屋上にいた。
 11月8日、火曜日の事だ。
 冬の夜空は空気が澄んで、いつもより星が多く見える気がする。
 眼下にある繁華街のメインストリートからの光が光害となり、天体観測には全く向かないが、恋人達がロマンティックを気取るには十分かもしれない。
 そう思いながら白い息を吐く哉汰は、自分とは反対側にあるフェンスに張り付くようにして双眼鏡を構えている残念イケメンの背中を見た。
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2012年03月19日

【ボクキミ】22

■■【22】■■

 昨夜はあの後、ユウは急に立ち上がり、窓を開け放つと身を翻して躊躇いもなく飛び出してしまった。
 まるで自分のしたことに、自分で驚いているようだった。
「ユ……ユウ!」
 体全体が熱っぽくて重たくてだるくて、固く勃起しすぎて刺激が怖いアレを気にしながらベッドを降りて窓辺に寄ると、家の前の道上では、元の姿に戻った優也が、学校の制服のままで立ち竦んでいた。
 強張った顔でこちらを見上げる優也は、今にも泣きそうだった。
 男に戻ったことで、自分のした行為が急に恥ずかしくなったのだろうか。
 そして、
「ごめん……ごめんね?」
 震える唇でそう告げると、ユウは哉汰が何か言う前に振り切るようにして走り去ってしまった。
 顔を背ける瞬間、哉汰の頬を涙が零れ落ちるのを見た気がした。
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2012年03月15日

【ボクキミ】21

■■【21】■■

 その日の放課後の帰り際、哉汰は優也に「一緒に帰るか」と言ったが、
「ボク、まだ園芸部の仕事があるから」
 と、優也は曖昧な笑みを浮かべて答えた。
 哉汰は待っていてやろうかと思ったが、そこまでする必要もないだろうと思い、そしてまた、数日間学校に来なかった分、園芸部の仕事もかなり溜まっているのだろうと想像して、優也を残して一人で帰ることにした。
 名残惜しそうに「ごめんね」と言う優也に、胸の奥をほんのちょっぴり刺激されながら……。

§         §         §


 哉汰は下校途中に少し足を延ばし、商店街の小さな書店では扱っていない本を探して、家とは反対の方角にある駅前のショッピングモールに立ち寄った。
 そこには、夜遅くまで皓々と光が満ちる大型店舗があり、商店街の書店など比べようもないほど品揃えの豊富なブックセンターがあるのだ(田崎書店のおじいちゃんには悪いけど)。
 哉汰は久しぶりにそこを訪れたこともあって、すっかり日の沈むのも忘れ、夢中になって漫画やラノベの新刊書籍などを見て回った。
 そのため、気付けば時刻はいつの間にか8時も過ぎ、ケータイには母からのメールが既に4件も入っていたのだった。
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2012年03月12日

【ボクキミ】20

■■【20】■■

 次の日、哉汰が登校した時、教室には当たり前のように優也がいた。
 正確には「いたようだ」……だ。
 少し早めに登校した哉汰よりもっと早くから登校していたらしく、机の横には優也の鞄が掛けられていたのだ。
 そして、哉汰が机に座ると同時に、後ろからあのほにゃほにゃとした暢気な声で、
「カナちゃんおはよー」
 と呼ばれた。
 胸の鼓動が急に激しくなり、哉汰はその変化に戸惑いながらも、しかつめらしい顔を作る。
「カナちゃん言うな」
 いつもの如くそう言いながら振り返ると、教室の後ろの入り口から当の人物が入ってくるところだった。
「おす」
 哉汰は何でもないように挨拶をし、何でもない風を装って、二日前の朝、何故か学校で優也らしい人影を見かけた事を言おうとした。
「あ〜……そういえばユウ」
「え?」
「昨日……」
「ん?」
 ……が、屈託のない笑顔を目の当たりにし、やめた。
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2012年03月05日

【ボクキミ】19

■■【19】■■

 だが、哉汰の想いとは無関係に、翌日も、そしてその翌日も、優也は学校には出てこなかった。
『また“体調不良”か……』
 次の授業のため化学室に向かいながら、哉汰はつまらなさそうに廊下の窓から中庭を眺めた。
 中庭では、体育の授業から戻ってきた生徒達が笑いあいながら歩いていた。
 優也がいないと、なんとなく学校自体がつまらなく感じる。
 それは決して、気のせいなどではなかった。

 先週の土曜から水曜の今日まで5日間。

 思えば、初めてあの商店街の路地裏で出会い、ウィッチ・ユウとキスしてから、優也がこんなにも長く、しかもただの一度も連絡も無く顔を見せなかったことは、今まで無かったのではないか?
 もちろん、普通の友人として優也と接していた時は他の友人と同様、長く連絡しない日もあった。夏休みだってそうだ。毎日のように連絡を取り合っていたわけではない。
 だが、少なくともウィッチ・ユウとパートナーとなってからは違ったのだ。
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2012年02月27日

【ボクキミ】18

■■【18】■■

 結局、その後も優也とは連絡が取れず、繋がるのは留守番電話サービスばかりだった。
 そのため、帰宅した哉汰は夕御飯までの時間を使い、今度は自宅の方に電話をしてみることにした。
 実は、今まで直接優也の家に行った事はあっても、こうして自宅に電話した事は滅多に無い。優也に用がある時は、直接彼のケータイにかけていたからだ。
 壁の時計を見れば、6時半を少し過ぎたところ。
『さすがにこの時間なら……』
 緊張気味に優也の自宅番号を呼び出して、コール2回。
 相手はすぐに出た。
【はいは〜い。朋坂でーす! どなたー?】

 やたらと脳天気な声。

 女子高生みたいな口調。

 間違いない。
 優也の母、朋坂真美(ほうさか まみ)だった。
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2012年02月20日

【ボクキミ】17

■■【17】■■

 カナケンの言葉によると、最近この町でも不可思議な現象が多々目撃されているらしい。
 曰く、人がいないはずの場所から人の気配がした。
 何もない空間から石や瓦の破片が飛んできた。
 急に空の一部がフラッシュみたいに光った。
 不意に耳元で誰かの声が聞こえた。
 挙げ句は、何か黒くて恐ろしいモノを裸の女の人らしい影が追っていた……など。
『裸っていうか半裸だけどな……それがユウだとしたら、だけど』
 学校の帰宅途中、哉汰は公園のベンチで、商店街の肉屋で買った揚げ立てのコロッケを齧っていた。
 公園はちょっとした草野球が出来そうなほど広いが、今は子供の姿も無く、犬を連れた老人が遊具の近くを歩いているだけだ。
「はふっ」
 コロッケに歯を立てると、サクサクっとした衣からじゅわっと香ばしい油が染み出し、噛み締めると牛挽き肉の肉汁とホクホクとした馬鈴薯の甘みが口いっぱいに広がる。
 いつもなら自然と笑みがこぼれるその味覚にも、今日の哉汰の気は晴れなかった。
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2012年02月14日

【ボクキミ】16

■■【16】■■

 朝の登校風景というのは、どこの学校でもさほど変わりはない。
 同じ制服を着たティーンの少年少女が同じ方向に向かって、ある者は一人で、ある者は気の合う仲間と、またある者は仲の良い異性とひたすら歩を進めている。
 ただ他の学校と若干違うところがあるとすれば、最近は少子化のため子供の絶対数が少なく、統廃合を行うことになる学校も珍しくないが、哉汰の通う学校は近隣でも比較的生徒数の多い学校だということだろうか。1クラス平均40人でA〜Kまで11クラスあり、1学年に平均440人の全校生徒数は優に1300人を超える。
 大型の都市部ならばともかく、地方の高校でこの規模はいわゆるマンモス校の一つに数えてもいいほどだ。そのため、同学年でありながら顔も名前も知らない生徒もざらだった。
 そんな、大勢の生徒が川を流れる水のように歩道を途切れなく歩いていく月曜日の登校風景の中に、複雑な表情をした哉汰の姿があった。
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2012年02月06日

【ボクキミ】15

■■【15】■■

 二日後の金曜日の夕刻。
 いつものように商店街の路地裏でめくるめく官能の時間を……もとい、大切な魔力補給を済ませた二人は、いつものように、誰に見咎められる事もなく帰路についていた。
 今日でこの「路地裏キス」も既に7回目を数え、二人ともすっかりその行為に慣れた。最初の頃のような緊張感や、誰かに見られるかもしれないという差し迫った危機感は、今となってはほとんど無くなっていると言っていいほどだ。
 そして、路地裏ではユウの「その方が効率良く上質な魔力が補給出来るから」という言葉を信じ、「乳吸い」も常習的に行うようになっていた。
 唾液を混ぜ合い、交換し合う、舌を絡ませるディープキスの後、ユウはビスチェ風コスのカップ部分をずりさげて両乳房を恥ずかしげに“ぼゆん”と剥き出し、哉汰はすぐに左右の乳首へ順番に何度もキスをし、舌を這わせ、甘く噛む。魔石による電磁波遮断域であるのをいいことに、ユウは特に抑える事もなく甘ったるい矯声を上げ、時折、母親が愛しい子に乳をあげながらそうするように、哉汰の髪を優しく何度もまさぐった。
 そして哉汰は、最初の頃はあれだけ抵抗を感じていたはずの背徳的行為に、すっかり没入していた。
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2012年01月30日

【ボクキミ】14

■■【14】■■

 “それ”はまるで、いわゆる神社でお参りの際にするような「柏手(かしわで)」というヤツと同じ動作だった。
 そして、全てはそれで「終わった」。
『おおっ?』
 哉汰の目の前で、『函(パンドラ)』を形成する光糸が急に輝きを増し、ユウを透過してケガレだけを取り込んだまま収縮していく。
 基点はユウが拝むように合わせた両手の先、数十センチだった。
『縮んでいく?』
 収縮するにつれてその速度は増し、やがて洗面所の排水口に水が吸い込まれていくように、または落ちなかった線香花火の火球がふっと消えるように、唐突に宙へとその輝きを消失させた。
「……はっ……はぁ〜……」
 その瞬間、哉汰は肺に溜まっていた空気を深く吐き出し、ようやくその時になって、自分が無意識に息を止めていた事に気付いたのだった。
「見ててくれた? カナちゃん」
 すうっと宙から降りてきたユウが、パールピンクのピンヒールをアスファルトに接地させ、嬉しそうに微笑む。
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