■感想など■

2012年01月23日

【ボクキミ】13

■■【13】■■



 ──それはまるで、何か特別なショーでも見ているような気分だった。


 黒い獣だった。
 大きい。
 見上げれば視界の中、街の灯に照らされた灰色の夜空を“それ”の半分が覆い尽くしている。
 時折響く、太くて震えるような音は眼前の獣の咆哮だろうか。
 それはまるで船の汽笛のよう。
 不意にうわんっと冷たい空を震わせ、それが圧力となって直接体に当たる。
 包む。
 打ちのめされる。
 下から見上げていてこれだ。
 まともに正面から相対していたならば、どれだけの圧迫感を受けるだろう。
『すげぇ』
 哉汰は感嘆するしかなかった。
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2012年01月16日

【ボクキミ】12

■■【12】■■

 ホームルームが終わり、引き続いて始まった1時限目は数学だった。
 哉汰は、正直言って勉強があまり好きではない。
 というか、嫌いだ。
 その中でも数学は特に大嫌いだった。
 そしてその原因の一つは、
「みなさん、おはようございます」
 教室前の引き戸を開けて入ってきた、黒縁眼鏡のスーツ教師にある……と哉汰は思っていた。
「それでは今日の日直の方、お願い致します」
 生徒に対するには些か丁寧過ぎる言葉遣いで授業開始の挨拶を促す姿は、絵に描いたような「誰もが持っている数学教師のイメージ」そのものだった。
 パリッと糊の利いたブルーラインのワイシャツに皺の無い背広。黒々とした短めでツヤツヤの髪は整髪料で丁寧に整えられ、身だしなみもバッチリだ。
 格好だけなら、数学教師より外資系商社のエリートビジネスマンと言っても通りそうだった。
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2012年01月09日

【ボクキミ】11

■■【11】■■

 翌日、早朝の学校に登校し、無人の教室で哉汰は一人、何をするでもなくぼんやりとしていた。
 まだ誰もいない教室の空気はひどくひんやりとしている。それなのに哉汰の頭の芯は妙にカッカと熱かった。
 いつもの登校時間より、一時間も早い。
 廊下からは朝練に向かう運動部員のものらしい足音と声が、他の教室からはドアの開く音や閉まる音が時折聞こえる。
 雑然と並んだ机達。
 視線の先には古ぼけた教壇。
 チョークの粉がこびりついたままの何も書かれていない黒板。
 右下の日直の欄には、昨日の担当だった山下と羽田の名前。
 時間割と校内便りや様々なお知らせが貼られた掲示板。
 昭和チックに古ぼけたスピーカー。
 スピーカーの上にある、丸く飾り気のないアナログ時計は、7時13分頃を指している。
 中庭に面した窓に目をやれば、朝日に透けたスカイブルーのカーテンの向こうに、昇降口へと向かう生徒の姿が散在していた。
 そこにはいつもと変わらない、何の変哲もない日常があった。
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2012年01月02日

【ボクキミ】10

■■【10】■■

「おまっ……は、はげし……」
 腰が抜けた感じがする。
 脚がガクガクして哉汰は思わずふらつきそうになった。それに、かろうじて射精は免れたがパンツの中身は既に先走り汁でぬるぬるだ。
 ユウを見ると顔が真っ赤に紅潮し、目は涙で潤んで“とろーん”ととろけ、口は半開きで唇の周りが唾液で濡れている。あきらかに“出来上がった”状態であり、もし今、哉汰がここで押し倒してTバックを脱がせても、何の抵抗も無く両脚を広げてセックスを受け入れてしまいそうな雰囲気があった。

 それにしても……

 哉汰は思わず“ぐびび”と喉を鳴らした。
 この状態のユウの「エロさ」は異常だった。汗ばんだ肌から立ちのぼる匂いは甘く、香しく、哉汰の脳の原始的で動物的な部分を直接刺激するような淫猥な力に満ちていた。深いクレヴァスを思わせる乳房の谷間はユウが身を捩るたびにむにむにと形を変えて哉汰の手の愛撫を誘っているかのようだった。
 あえて重ねて何度も繰り返すが、思春期の男の子の頭の中はエロい妄想でいつもいっぱいでマグマのように“ぐつぐつ”と煮えたぎっているものだ。いくらネットでその手の画像が氾濫していたとしても男の子にとって女の子の体というのはファンタジーに満ちており、jpg画像やavi動画や雑誌や写真集などでは到底満たされることのないエロスな飢餓感というものは、こうした現実の、目の前の、今すぐ触れる距離にある女の肉体によってのみ充足されるものなのだ。
 そのため哉汰にとってユウの体というのは、いくら理性では「元は男の体」だと理解していても、感情……原始的な欲望の情動では、そのおっぱいも触れたくて嘗めたくて吸いたくて揺らしたくて責めたくてたまらないものに変わりはなかった。
 だから、
「カナちゃんにはお世話になってるし……だから、いいよ?」
 と、甘ったるい声で言われた時、哉汰は自分でも気づかないうちに口元がだらしなく緩んでしまっていたことに気付かなかった。
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2011年12月26日

【ボクキミ】9

■■【9】■■

 この日を境に、哉汰はウィッチのパートナーとして、ユウと頻繁にキス……否、魔力補給をするようになっていった。
 回数が多いということは、ケガレの発生と活動がそれほどまで活発化している……ということなのだろうが、それだけでもないのではないかと、哉汰などは思ったりもする。
 つまりそれは、“ユウが快楽に流されているのではないか?”という推測からだ。
 その証拠に、最初は小鳥同士が啄ばむような、ほんの少し触れるだけのキスだったのが、段々と唇同士が密着する時間が長くなり、最近では舌を互いの口腔内に挿入する、いわゆるフレンチ・キス(ディープ・キス)の様相を呈してきているのだ。
 ユウは本来の姿は男かもしれないが、見た目は色気たっぷりの“むちむち美人”なのだ。
 それに身を寄せるとすごく良い匂いもするし、実際、キス自体もとても気持ちが良く、哉汰にもその時は「男としているのだ」という感覚が全く無くなっていた。
 だから唾液同士が“くちゅくちゅ”と交じり合うフレンチ・キスも全然平気になっていたのだが、そもそも、そこまで深くキスする必要があるのかと疑問に思わなくもない哉汰であった。
 ユウが言うには、唾液に含まれる『ディフェンシン』という抗微生物ペプチド(抗菌性物質)が、哉汰の中の魔力を、よりロスが少ない形で効率良く伝える“伝達触媒”となっている……とかなんとかもっともらしい理由を付けてはいるのだが、それが真実かどうかは定かではないのだから。

 とはいえ哉汰も、そうしてユウと何度もキスを繰り返すうちに、その際に受ける快感には時間と場所によってひどくバラつきがある事を知った。
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2011年12月19日

【ボクキミ】8

■■【8】■■

「えっと……じゃあ、その……そろそろ……」
「お、おう」
 決して広くは無い部屋の中央で立ったままお互い顔を赤くし、まるでお見合いのようにもじもじと相手の様子を伺っていたユウと哉汰だったが、不意に当初の目的を思い出したかのように言い合うと、おずおずと向かい合った。
 そうして、不意にユウが床の絨毯に膝をついて、神様に祈りを捧げる修道女(シスター)さながら、目を瞑って頤を上げる。なるほどこうすれば、キスするのにおっぱいが邪魔になるということもなさそうだった。
 とはいえ、ユウがベッドに座ってキスすれば、さほどその巨大なおっぱいも邪魔にはならないはずだが、それを哉汰が提案する前にユウが行動を起こしてしまったため、結果的に言いそびれてしまった形だ。
 なぜなら身長180センチ近くある背の高いユウが、背の低い152センチの哉汰の前に膝をつくと、キスするのに丁度良い高さになる。たったまま哉汰がちょっと屈めばいいからだ。ところが立ってしても、そしてユウがベッドに腰掛けても、ベッドの床からの高さがそれなりにあるため、どうしてもユウの目線が自分よりも上に来てしまうのである。
 哉汰が「ベッドに腰掛ければ良い」と、あえてユウに言い直さなかったのは、男としては形だけでも『自分から女にキスしたい』と思うささやかなプライドからだった。目線が上だと、どうしても「キスされている」という印象が先に立つのだ。たとえ相手が本当は男だとしても、今は女なのだから、そこは譲れない一線だった。
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2011年12月12日

【ボクキミ】7

■■【7】■■

 かくして哉汰は、一人立ち間もない新米ウィッチ・ユウのパートナーとなった。
 いわゆる日常から非日常へと足を踏み入れたわけだ。
 だが、翌日から劇的に生活が変わったかと言えばそんなことはなく、朝起きて学校に向かい、教室に入って優也と挨拶を交わし、授業を受け、優也と帰宅しながら彼の話せる範囲のウィッチやケガレ、そしてケガレのサーヴァントの話などを聞く……という、今までとあまり代わり映えのしない日が続いた。
 その間、優也が学校を遅刻・早退・欠席するような事も無く、また、ケガレとの闘いに向かうと、彼から連絡を受ける事も無かった。
「パートナーといってもこんなものか」
 そう、哉汰は思い始めていた。
 だが衝撃的な「出会い」から数日が過ぎたある日の夕方。
 とうとう優也から一通のメールが届いたのだった。

『今晩、たぶん1時頃にお邪魔します。部屋の窓を開けておいて下さい。』

 恐らく今日これから、ケガレとの闘いに向かうのだろう。
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2011年12月05日

【ボクキミ】6

■■【6】■■

「なんだよ歯切れ悪いな」
「ええと……」
「言えよ。いいから」
「……その……キスによる魔力補給には、『激烈なる快美感(オルガスムス)』が伴うんだって」
「は?」
「だから、その、キスすると、その、えっちしたときみたいなものすごくきもちいいかんじになるんだって」
「……棒読みすぎんぞオマエ」
「だ、だってボクまだそんなの経験したことないもんっ! カナちゃんもでしょ!?」
「カナちゃん言うな」
 顔を真っ赤にしながら抗議する優也に、だが哉汰は賛同する事が出来なかった。
 なぜなら、さっきの路地裏でのキス。
 あれはちょっと触れただけなのに、なんかすげー気持ちよかったのだから。
「そ、それにパートナーが異性な事が多いのにはもう一つ大きい理由があって……」
「あ〜〜……なんかもう、何聞いても驚かねぇ」
「神経細胞が密集している感覚受容体が、数多く集中している部分……って、顔だけじゃないでしょ?」
 言いにくそうに顔を真っ赤にしたまま、優也はちらちらと上目遣いに哉汰を見た。
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2011年11月28日

【ボクキミ】5

■■【5】■■


 生活形態(普段の姿)は14歳で肉体が固定された、男子高校生の朋坂優也。

 戦闘形態(対ケガレ戦の姿)は24歳程度の超グラマラス女ウィッチのユウ。

 では、本来の年齢である24歳成人男性の朋坂優也はどこにいるのだろうか?

 哉汰は小さく息を吐くと気分を切り替えた。
 今はその疑問は置いておくべきだ。
 そう思ったのだ。
 様々な驚きの事実が次々と明かされて頭がパンクしそうだった。
「しかし……今までよくバレなかったな」
「まあ、予防策としてコレかけてるからね」
 優也はそう言って、顔からしたら結構大きめの黒縁眼鏡を外してみせた。
 眼鏡を外すと、色素の薄いさらさらの髪や色白の肌と相まって、ちょっと男の子っぽい女の子に見える。
 女の子っぽい男の子……ではない。
 男3割、女7割って感じだった。
「……眼鏡?」
「うん。ボク達はこれを『識力偏向眼鏡(プリズム・グラス)』……って、呼んでる」
「……プリズム眼鏡とどこが違うんだ?」
「???……それは知らないけど、この『識力偏向眼鏡(プリズム・グラス)』は、人の認識を逸らせる、魔法具(マジック・アイテム)なんだよ」
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2011年11月21日

【ボクキミ】4

■■【4】■■

 ウィッチは『函(パンドラ)』の形成も『濁怨(ケガレ)』の消散にも、莫大な魔力を必要とする。
 そのためウィッチには、闘いにおいての魔力消費を極力抑え、効率良くケガレの消散を行えるよう特殊な戦闘形態が存在し、あの露出過多な魔女っ子風コスチュームも、実はその一つなのだという。本来であればウィッチは必要最低限の衣服しか身に着けないため、裸である事が最も望ましいらしい(大気と触れる表面積が大きければ大きいほど、大気から、魔力となる魔素を得る事が出来る……という、冗談みたいな“とんでも設定”らしい)のだが、さすがにそれでは闘いにくいため、ああいう形態になったのだとか。もっとも、それがなぜ魔女っ子風コスチュームになったかは……ウィッチの間でも長らくの謎だった。
「ああいう格好……恥ずかしくないのか?」
「もう慣れた……って言ったら嘘になるけど、実際、ウィッチの姿になってる時はあの恰好が普通で当たり前だって本気で思ってるから」
「じゃあ写真に撮って見せられたら?」
「し、死んじゃう」
 もちろん戦闘形態=(イコール)魔女っ子風コスチュームというわけではなく、普段の姿……いわゆる生活形態とは髪や目の色、髪の長さや時にはプロポーションまで変化するウィッチもいるのだという。
 そして通常であれば、ウィッチは戦闘形態を解くことで、すみやかに魔力の補充段階(生活形態)へとシフトするのが常らしい。
 だが、戦闘形態へ至るには更に性変転(トランス)を経るという、通常とはもう一段階プロセスを必要とする特殊なウィッチである優也は、闘いの後、そのままでは通常の生活形態へとスムーズに移行できないのだという。
 それでも今までは、先代ウィッチである母親と行動を共にすることで、生活形態への移行に必要な魔力を彼女から分け与えてもらうことが出来ていたため、それほど不都合は無かったのだ。
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2011年11月14日

【ボクキミ】3

■■【3】■■

 唇が触れ合い、比喩ではなく本当に全身を痺れるような震えが走り抜けた後、外界から瞑った瞼を苦も無く通り抜け網膜を焼くような、今まで体験した事が無いような強烈な光を感じた。だが、その光に熱量は無く、強くはあるが必要以上に視神経を刺すような感覚は全く無かった。
 光を感じたのは数秒間程だったろうか。
 いつしか唇は離れていた。
 ようやく瞼を開けた哉汰が目にしたのは、色気過剰のウィッチのお姉さん……ではなかった。
 目の前で真っ赤にした顔をふにゃふにゃと崩して無理矢理笑っていたのは、哉汰と同じ学校の男子の制服を着た、本物の男の子だった。
「……で? 説明してくれるんだろうな? ユウ」
「ごめんね。カナちゃん」
「カナちゃん言うな」

 それが哉汰と、ウィッチ・ユウとの「はじまり」だった。

§         §         §


 父方の曾祖母が東欧の出身という彼の家は、そもそもが代々、ウィッチを人知れず数多く輩出してきた、由緒正しい魔女の血統なのだという。
 そして過去のウィッチの例に漏れず『守護者(バランス調停者)』としてこの世界を人知れず護ってきたらしい。

 ──ウィッチが護るもの。

 それは“世界の霊的バランス”であり、主に“人々の霊的安寧”であり、その相手とは『濁怨(ケガレ)』と呼ばれる、「澱んだ人の想念」が形を取ったモノ達であった。
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2011年11月07日

【ボクキミ】2

■■【2】■■


 ……なんてことだろう。

 目の前のおっぱいさんは、驚くべきことに“ボクっ子”だった(驚くところはそこか?)。
 いや、20代に「子」はあんまりだから“ボクっ娘”だろうか。
 信じられない。哉汰は17年間生きてきて、そういう存在は漫画かアニメかゲームの世界にしかいないものだと思っていた。
 それを言ったら現在では現実として認知されているウィッチの存在そのものがそうなのだが、この時の彼はそこまで思い至ることなど出来なかったのだった。

 何度でも言ってしまうが、なにしろ“おっぱいさん”である。

 今週号のグラビア青年誌のトップページを飾っていた巨乳系グラビアアイドルが自称98センチのHカップだったけど、それよりも確実に大きく見えた。
 ずっとずっと大きく見えた。
 山盛りだ。
 特盛りだ。
 これでつゆだくだったら歩く猥褻物である。
 なんだかワケが解らないが哉汰も混乱していたのだ。お姉さんの言葉に返事をするどころか、一言も口に出来ずにいた。
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2011年10月31日

【ボクキミ】1

◆◆ プロローグ ◆◆



 ──『世界』のヴェールは剥がされた。


【この世界には通称『ウィッチ』と呼ばれるバランス調停者(単に『守護者』とも呼ばれる)が多数存在し、人知れず人々の平和と安寧を日々護っている。】

 そういう噂が、今まで全く無かったわけではない。

 だが、その事を口にするのはほとんどが感受性の豊かな思春期の少年少女や、感性の鋭い、いわゆる自分の世界に没頭しがちな芸術家肌の「クリエイター」と呼ばれる人種に多かったため、その“ある意味において真実を暴いていた言葉”は、よくある「セカイ系」の妄想として一蹴され、その“正しい認識”は常識という名の凡庸たるヴェールで再び塗り潰され、二度とその者の意識に上ることが無いのが常であった。
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