■感想など■

2009年05月13日

第2章「今日からオレは!」

■■【5】■■
 息子が突然娘になってしまった事について、母は特に気にしていないようだった。目覚めてからずっと聞かされた話で、事の概要は理解したつもりだけれど、それでも、もうちょっと哀しんでくれてもいい気がする。
 これで悲嘆に暮れて自殺でもしたらどうするつもりだったのか、圭介が少し不機嫌に言うと、
「そのための『ネクタル』よ」
 と言ってにこにこと微笑んだ。

 『ネクタル』というのはギリシャ(ヘレネス)神話に出て来る神々の飲み物であり、不死の酒の事だ。同じく神の食べ物の『アムブロシア』と共に、全能の神「ゼウス」から眷属の神々に振舞われたり、神々の子供達に与えられたりする、神話上の飲み物と言われている。
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2009年05月12日

第2章「今日からオレは!」

■■【4】■■
 目覚めてから4日間、彼が何もしなかったわけではない。
 その間、圭介は母からいろいろな事を教わった。
 正直、ちょっとうんざりした。
 17年間男として生きてきたのに、いきなり女の生き方を教えられても困惑するだけで、具体的な現状の打開策なんてものはこれっぽっちも浮かびやしない。
 けれど、身体は心の器であり、心は身体のありように影響されるものだ。圭介の場合は、ある日突然……というわけでもなく、昏睡状態だった期間も合わせて一週間という時間をかけ、徐々に心が肉体に引き摺られていった。
 それはいっそ、「馴染んでいった」と言い換えてもいい。
 「男であろうとする」「かつて男のものだった心」が、「女であることを強く感じさせる」「女そのものの身体」に、徐々に“呑まれて”いったのだ。
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2009年05月11日

第2章「今日からオレは!」

■■【3】■■
 担任のはるかには、母、涼子が連絡したようだった。
 翌日の午後、圭介の家を訪問した“はるかちゃん”は、リビングで何をするでもなくテレビをぼんやりと見ていた圭介を見て、
「か……かわいい……」
 と呟いた。けれど、剣呑な目で見やる圭介に気付いて慌てて居住まいを正すと、母と圭介と3人でテーブルを囲み、定石通りの定例文を告げ、40分ほどで帰っていった。
 つまり、「君の苦しみもわかるけど」とか「みんな待ってるの」とか「外に出る努力をしなくちゃ」とか「先生信じてる」とか、そういう、いわゆる「ひきこもり不登校生徒」に対するものと同じような対応の、新任教師にありがちな“マニュアル対応”をしたわけだ。
 初めての担任で一所懸命なのはわかるけれど、あまりにも配慮が足りないとしか、言わざるを得ない。続きを読む

2009年05月10日

第2章「今日からオレは!」

■■【2】■■
 圭介は、玄関から出てきた2人が窓を見上げると、小さく手を振ってやった。
 太陽はすっかり地平に沈み、夕焼けの残照がわずかに残るばかり。町の家々の明かりが、その中で笑いさざめく人々の笑みを思い浮かばせる。
『大丈夫かな……由香のやつ……』
 2階に上がって来た時、何か決心したような顔をしていたと思ったら、急に赤くなって黙り込み、そして圭介の告白で固まって、健司の叫びでぶっ倒れた。
 なんとか健司と2人で介抱したけれど、まだふらふらしていたから、ひょっとしたら明日は学校を休むかもしれない。
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2009年05月09日

第2章「今日からオレは!」

◆◆ 第2章 ◆◆ 「今日からオレは!」

■■【1】■■
 川野辺由香が、幼馴染の少年の部屋に入ったのは、小学校の5年生以来だったかもしれない。確かあの時は、圭介の誕生日会をするというので、友達といっしょに彼の家まで出掛けていったのだった。
 小学3年生の時に引っ越してきた圭介は、まるで少女みたいな顔をしていた。『綺麗だな』と思った数分後には、その事をネタにからかったクラスの悪ガキと取っ組み合いのケンカを始めてしまったので、由香の中ではあっという間に『綺麗な子』から『乱暴な子』にランクダウンしたのだけれど。
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