■感想など■

2009年06月02日

第5章「オレが女で初登校」

■■【8】■■
 午後7時ともなると、日も沈んで辺りはぐんと暗くなってくる。空には、紫から群青色に移りゆく夕焼けの残照がわずかに残るばかりで、星達がさっそく夜の瞬きを披露していた。
 夜空に黒々とそびえる校舎の黒いシルエットは、まるで堅牢な要塞のようだ。実際、実社会から切り離された『学校』という空間は、世の中に満ち満ちている苦難から、幼い生徒を護る最後の砦のように思える。辛く厳しい現実に飛び立つ前に、弱くて小さな翼にたっぷりと力を蓄えるための場所。甘えが許される、最後の時間。
 だからこそ生徒達は毎日を精一杯楽しむのだ。本人達にその自覚は無いだろうけれど、時が経ち、再びこの幼年時代を振り返ったとき、自分がどれほど大人達に“護られて”いたか、まざまざと思い知るだろう。
 もちろん彼も、その一人だった。
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2009年06月01日

第5章「オレが女で初登校」

■■【7】■■
 圭介が肉体の満足感と精神的な喪失感、それと多大な罪の意識に苛まされながら美術室のドアを開けると、そこにはもう5人の人影があった。
 珍しい。
 ほとんどフルメンバーだ。
 それで喜んでしまうというのもどうかと思うけれど、悲しい事にそれが現実である事も認めなければならない。本当は圭介を入れて全部で7人なのだけれど、一人は3年生のため、6月からは顔を出す程度になっているのだ。12日には引継ぎも完了し、その3年生は実質「OG」となってしまう。
 よくこの人数で部として成立しているものだ。
 圭介は、それがいつも不思議でならなかった。
「……はよー」
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2009年05月31日

第5章「オレが女で初登校」

■■【6】■■
 午後になり、ホームルームも終わって、みんな、それぞれの時間を過ごすべく教室を出て行く。
 圭介は真っ先に教室を出て、人が最も来ないだろう、「管理・学習交流棟」の3F女子トイレまで来ていた。
 由香はテニス部へ。
 クラスの違う健司は、いまごろ水泳部へ行っているはずだ。
 部活が終わってから健司とCDを買いに行く約束をしていたから、帰る時間までにこの“嵐”を鎮めておく必要があった。
 周囲を見回し、誰もいないことを確かめる。
 中に入り、ウォシュレット付きの洋式便器のある個室に入った。
 由香がくれた少し大きめの巾着袋から母のポーチを出し、浄水層の上に置く。スカートをたくし上げるのももどかしく、両手で下着の横に親指をかけて一気に引き下ろしながら、そのまま便座に座った。
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2009年05月30日

第5章「オレが女で初登校」

■■【5】■■
 その日の昼休み、圭介は天気が良い時はいつもそうするように、「教室棟II」横のベンチで健司と由香と、3人で一緒に昼食を取っていた。
 目の前には濃い緑色のフェンスがあり、その向こうには2面のテニスコートが見える。そのコートでは、早々と昼食を済ませた女生徒が数人、制服のまま軟球を使ってテニスの真似事をして遊んでいた。
「ねー!圭ちゃんもやらないー?」
 フェンスの向こうから、女生徒の1人が声をかけてくる。髪を頭の左右で結んだ……いわゆるツイン・テールにしたその女子は、圭介には見覚えの無い顔だった。けれど、ここ数日ですっかり…………たぶん校内一有名になってしまった圭介を知らない者はいないため、別に声をかけられても驚きはしない。
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2009年05月29日

第5章「オレが女で初登校」

■■【4】■■
 天井が見える。
 カーテンからの光が、薄明るい部屋の空気を切り裂くように差し込んできていた。
「…………っ…………」
 圭介は口を軽く開けて、はっ……と短い呼気を吐く。
 わかっていた。
 また、濡れている。お尻に“きゅ”と力を込めると、あそこがぬるぬるしているのがわかった。
 やはり自分は、異常なのかもしれない。
 この2晩、立て続けにいやらしい夢を見て、そしてあそこをぬるぬるに濡らしている。この分では、またシーツまでしっとりと濡れているだろう。
 気だるい身を起こし、ベッドの上に座り直す。それだけであの“肉の亀裂”が縒(よ)れて擦り合わさり、いっそうぬるぬる感が増してしまう。
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2009年05月28日

第5章「オレが女で初登校」

■■【3】■■
 この4日間で圭介が驚いた事が、もう一つあった。
 “あの”アナゴの変化だった。

 それは火曜日のことだった。
 あの小憎らしい居丈高の中年教師は、圭介が女だったと知ると(事実はどうあれ、学校では教師も生徒もそう思っている)、昼休みに生徒指導室へ圭介を呼び出し、
「いろいろ悪かったな」
 と詫びたのだ。
 教師が生徒に、しかも、あのアナゴが圭介に詫びを入れるなんてのは、天変地異の前触れでも無い限り起きる事は絶対に無い……と信じていた圭介だったから、アナゴが気まずそうにそう言った時、今すぐここから逃げようかと本気で思ったものだ。
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2009年05月27日

第5章「オレが女で初登校」

■■【2】■■
 圭介が学校に出て、少しも混乱が起きなかったか?……と言えば、決してそんな事はない。
 一週間前まで男だった人間が、ある日突然、可愛らしい美少女になってやってくれば、誰だって驚くし、気味悪く思う。
 最初の日……つまり6月5日の月曜日は誰も、圭介の体がすっかり女の体になってしまったとは信じていなくて、圭介は学校にいる間中、ずっと珍獣扱いだった。

 クラス会議で『普通に接しましょう』と決められた2年C組のクラスメイトはともかく、他のクラスまでそれは徹底されていなかったから、中には「どこで手術してきたんだ?」と無遠慮に聞く男子もいたし、擦れ違いざまに胸に触るハラスメントな男子もいた。
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2009年05月26日

第5章「オレが女で初登校」

■■【1】■■
 翌日から、さっそく由香の『授業』が始まった。

 圭介自身は、しばらく男子用の学生服で登校するつもりだったのだけれど、母はちゃっかり女子用のブレザーを用意していた。あまつさえ彼が眠っている間に学生服を、予備も含めてどこかに隠してしまったため、彼は心の準備もそこそこに、初日からミニスカートと格闘する羽目になってしまったのだった。
 当の母は、午前中に収録があるとかで寝ぼけ眼の圭介のほっぺたにキスすると、さっさと迎えに来た車に乗って行ってしまった。昨日までの数日間とはえらい違いだ。きっと圭介に全部話してしまって、肩の荷が下りたとでも思ってるんだろう……と、彼は思った。
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