■感想など■

2009年06月21日

第8章「初めてのボクの下着」

■■【7】■■
 それから圭介と多恵は、ブラの試着をしながら色々な事を話した。『胸を小さく見せる方法』も教えてもらって、結構いろいろな方法があるのだと知った。
 中には、ブラを、アンダーが1サイズ大きくてカップサイズが1〜2サイズ小さいものにする……というものがあった。最近のブラが、ほとんど「寄せて上げる」(バストアップ)効果があるのに対して「広げてつぶす」方法だ。
 でも多恵さんにちょっと怖い顔されて、
「これは胸の形が悪くなるかもしれないから、ケイちゃんはぜったいにしちゃダメ」
 と言われた。
 「しない方がいい」ではなかった。「しちゃダメ」と禁止されてしまった。
 人から強制されるのは本当は好きではないはずなのに、なんだか嬉しかった。それが不思議だったけれど、一人っ子の圭介には、こうやって「いけないこと」を「いけない」のだと教えてくれる多恵さんが、なんだか「お姉さんがいたらこんなのかなぁ……」と思えてしまったのも事実だ。
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2009年06月20日

第8章「初めてのボクの下着」

■■【6】■■
 驚いたのは多恵だった。
 カップサイズを告げたら急に連れを呼んで欲しいと言われ、いないと言うと不意に黙り込んで、そして
「……ぅ…………っ…………」
 泣き出してしまった。
 ぽつぽつと、試着室の床に黒い染みが出来る。肩を震わせ、しゃくりあげ、メロンちゃんは声を殺して泣いていた。
 声をかけた方がいいだろうか?

 でも、どうやって?

 私は単に下着売り場にいる店員で、メロンちゃんのプライベートな問題に口を挟むような立場にいない。
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2009年06月19日

第8章「初めてのボクの下着」

■■【5】■■
「男とえっち……」
 多恵は、確かにそう聞いた。

 試着室から出て、多恵は今のデザインよりもう一つカップサイズを上げた、65Gを手にした。
 この店にあるGカップブラで、少女のような高校生でも買えるくらいのものは、このメーカーのものを含めて3種類くらいしか無い。そもそも、日本人女性の体格と脂肪分布からして、アンダー65でFカップ以上のブラが必要な女性など、滅多にいないのだ。それでも3種類もあるのは、多恵にとっては不本意ながら女装趣味の少年とか、パーティー用の“シャレグッズ”として買っていくお客様がいるからに他ならない。買う者がいる以上、それがどんな対象であろうとも売るのが商売だ。それでも、ちょっと虚しい気持ちを抱いてしまうのは止められなかった。
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2009年06月18日

第8章「初めてのボクの下着」

■■【4】■■
 店員は、セーターの上から圭介のバストサイズを軽く測り、とりあえず65Fということで、4つほどのメーカーのものを3〜4着ずつ持ってきてくれた。
 パットとかワイヤーとかフルカップとかハーフカップとか、ホックがどうとかストラップレスがどうとか、いろいろと聞いたような気がするけれど、ぜんぶ由香と店員さんに任せておいた。最初から全部聞いても覚えられないし、面倒臭くて逃げたくなったから。
 困ったのは、試着室にブラを持って入ってからだ。

 着け方がわからない。

 一応、低年齢向けなのか、試着室には「正しい下着の着け方」なんていうものがあって、それを読んだ。
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2009年06月17日

第8章「初めてのボクの下着」

■■【3】■■

 曽我山多恵(そがやま たえ)24歳は、女の子が大好きだ。

 どれくらい好きかというと、口に出す時に「だい」と「すき」の間(あいだ)に1.5秒ほどの間(ま)が開くほどだ。
 文字にすると
「だいっっっっっっっすきっ!!」
 となる。
 もちろん、そんな事を公衆の面前でちからいっぱい公言するのは、今の日本ではまっとうな社会人としてはあまり喜ばしくない事態を引き起こす恐れがあるので、いくら体面をさほど気にしない彼女とは言っても、おいそれと口には出さない。
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2009年06月16日

第8章「初めてのボクの下着」

■■【2】■■
 婦人服売り場の階段横の椅子で、圭介はぐったりと背もたれに身を預けていた。
 由香が、水に浸したハンカチを目に被せてくれる。ひんやりと冷たくて気持ちよくて、いい匂いがした。
 由香の匂いだった。
「だいじょうぶ?」
「…………へーき……」
「平気じゃないじゃない……」
 由香は、「しょうがないな」とでも言いたそうな口調でそう言うと、なでなでと圭介の頭を撫でた。
「……なんだよ」
「ん…………なんとなく」
「……ガキ扱いすんな」
「……イヤ?じゃあ、やめるけど」
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2009年06月15日

第8章「初めてのボクの下着」

■■【1】■■
 町内に、ランジェリーショップのような独立したブティック形式の店舗が無いのは、やはり不便だと由香は思う。
 独立店舗なら、店内で知人に出会ってもそれはランジェリーを買いに来た客であり、必要以上に詮索される事も無いからだ。商店街やスーパーではそうもいかず、一般客の男性が何気に視線を向けてきたりして、年頃の女としては落ち着かないこと甚だしい。それに、商店街では顔を知られ過ぎて、店のおばちゃんにそれとなく根掘り葉掘り聞かれてしまうのは目に見えている。
『ちょっとは大きくなったかい?』
『由香ちゃんももうそんな年頃なんだねぇ』
『もういい人は出来たかい?』
 中学生の頃までは結構馬鹿正直に答えていたこれらの質問も、近所のおばさん達に無用な話のネタを与えるだけだと気付いてからは曖昧にお茶を濁すだけに留めるようになった。けれど、『女になった』ばかりの圭介にとって、そういう詮索攻撃は、ただ胸を見られるよりずっと、耐えがたい苦痛に違いない。
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