■感想など■

2009年07月28日

第13章「覚悟と決意」

■■【8】■■
 ちょっと痛む左足を庇いながら、桂は急いでトイレへと駆け込んだ。
 スリッパを突っかけて、内開きの個室のドアを閉め、そのドアに背中を預けてから後手にツマミを捻ってロックする。少しツンとした塩素の匂いを鼻腔に感じながら、ドキドキと高鳴る胸を押さえる。じわじわとした“熱”がおっぱいの奥に溜まり、それがともするとおっぱいの頂点で息づく赤味の増した“グミキャンディ”を、“きゅんきゅん”と刺激してしまおうとたくらんでいた。しゃくりあげるように息をして、唾を飲み込みながら目を瞑れば、先ほど感じた“もう一つ”の身体の変化をハッキリと感じてしまう。
 桂は、授業中で誰もいるはずの無いトイレの物音を息を潜めてじっと聞き入る。
 そして本当に誰もいないことを確かめると、立ったまま水着のボトムを引き下ろした。それから意を決するように白いサポーターの股間に当たる部分を覗き込んで、彼女は「やっぱり……」と、そっと溜息を吐く。
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2009年07月27日

第13章「覚悟と決意」

■■【7】■■
 そんな事を考えていたからだろうか?

 ――――脚を、攣った。

『あ、ヤバいな』
 と思った時はもう遅くて、左足の脹脛が“びきっ! ”と突っ張り、水を“がぼっ”と飲む。
 鼻からも水が入り、目を“ぎゅっ”と瞑ったものの、塩素臭い水が鼻の奥を焼く痛み(?)に、桂の思考はいっそうパニックへと突き進んだ。目を開けても、視界は薄青く着色された水中と水面とそれ以外を“ざばざば”と音を立てながら上下するだけで、こんな時にこそ威力を発揮するだろう「水中ゴーグル」なんていう“文明の利器”は、水泳部という“特権階級”にしか許されていない特殊ツールであり、ことプールの中に限って言えば「視界良好」なんてのは彼らのためだけにあるような言葉だから、今の桂にとっては目を開けても見えていないのと全くの同義だった。
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2009年07月26日

第13章「覚悟と決意」

■■【6】■■
 蒸し暑い日々が続くと、登下校時に見る田んぼや用水路、果ては貯水池の水までが自分を誘っている気がする。
 もちろんそんなものは幻想であり幻覚であり幻聴であって、万が一にもその声に従ったら、たちまち青いメタリックなスジの入った水棲吸血軟体生物に吸いつかれてしまうので、誰も実践しようなどとは思わないのだけれど。
 この季節、太陽はもちろん味方ではない。
 特に、梅雨時に顔を出す太陽は、風が無い時などは最悪だ。
 濡れたアスファルトを温めて、湿気を立ち上らせ服の中までじっとりとさせるからだ。そして、3日、4日と降り続いた雨は5日の今日、朝方になってようやく一旦止んで、雲間から時々太陽が覗くようになっていた。そして生徒達が登校を始める7時頃になると、やはり……というか、当然のようにアスファルトから立ち上る湿気と温まり始めた空気によって、朝から彼らの顔には、うんざりとした色が浮かぶようになっている。
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2009年07月25日

第13章「覚悟と決意」

■■【5】■■

 7月になった。

 7月最初の登校日は3日で、月曜日で、そしてどしゃぶりの大雨だった。
 梅雨明け宣言はまだまだ先の事になりそうで、土曜日からずっと、朝からムシムシと湿気の高い、いや〜な日々が続いている。
 こういう日はさすがの桂も「スカートで良かったかも…………」と思ったりする。
 ズボンの時は、いくら夏服とはいえ通気性が悪く、じっとりと汗をかいたらズボンが脚に纏わりついて、不快極まりなかった事を思い出すのだ。
 ミニスカートはその点、(下からの)通気性“だけ”はいいので、男子の目が無い所では女子のみんなで盛大に“ばさばさ”とスカートを扇いだりしていた。
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2009年07月24日

第13章「覚悟と決意」

■■【4】■■
 結局、水着は亮達が帰ってから、由香と一緒になって選んだ。
 前に由香と下着を買いに来た時は、平日の下校後に訪れたので閉店時間まで間が無かったけれど、今回は期末考査最終日という事もあって、たっぷりと時間をかけて選ぶ事が出来た。
 それは、桂にとってはちょっと…………嬉しかった。
 水着は下着とは違って、トップもボトムも試着が出来た。けれど、試着出来るとはいっても、さすがにボトムは肌に直接着けるわけではなく、「下着の上から」して下さいと言われ、結局、試着室にイロイロ持ち込んで由香と一緒に“きゃいきゃい”言いながら選んだ。
 騒ぎ過ぎて、店員さんに注意されてしまったほどだ。
 正直、すごく、楽しかった。

 もちろん、「同性」とはいえ、由香の前で下着姿になる事に羞恥が無いわけではない。
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2009年07月23日

第13章「覚悟と決意」

■■【3】■■
 以前、街に出た時に頭の悪い馬鹿中学生達に絡まれたことを話すと、由香は「じゃあ制服で行こ?」と言ってさっさと切符を買ってしまった。水着を買うのは学校の体育授業のためだし、何より制服なら軽々しく声をかけられる事も無いだろう……という計算らしい。
 「んなわけねーだろ」と思わなくも無い桂だったけれど、着替えの服を何も持ってきていなかったので仕方が無い。
 そして電車に乗り、街に出て、デパートに行き、水着売り場に到着するまでにも、桂は無遠慮でいやらしい視線を幾度も幾度も感じた。カチューシャを外していたら、今頃大変な事になっていたに違いない。とりあえず視線が鬱陶しかったものの、擦れ違う街中の男達に片っ端から『犯されるビジョン』を流し込まれるという事態だけは避けられたわけだ。
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2009年07月22日

第13章「覚悟と決意」

■■【2】■■

 結局、圭介は名前を変える事に同意した。

 新しい名前は、いろいろあったけれど、とりあえず「桂」の一文字にしておこう……と思った。
 あまり女の子っぽい名前は、ちょっと馴染めなかったし、だからといって「圭介」の「圭」という文字にも(母ではないけれど)未練があったから、「介」と画数が同じ「木」をヘンにして「桂」。
 「かつら」と読ませてもいいか……と思わなくもなかったけれど、親しい人たちは「けーちゃん」とか「ケイちゃん」とか呼ぶのだから「けい」のままだ。

 そして、一夜明けて月曜日の朝の事だった。
 試験が近いため、どこかそわそわした教室で、担任のはるかちゃんの声が響く。
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2009年07月21日

第13章「覚悟と決意」

■■【1】■■
 日々に悩み、己の境遇を憂いても、毎日の生活は何事も無かったかの如く無情に過ぎてゆく。

 まー坊に逢ってから、圭介が今の自分という存在について「何も思わなかった」という事は決して無い。
 けれど、今の自分の境遇や周囲に対しての姿勢……なんてものは、それこそうんざりするほど考え、悩み、時には後ろ向きになりながら“もがいて”きたのだ。「悩んでいても仕方ない」……と、考える事を保留にしてしまうまで、さほど時間はかからなかった。出る事の無い答えにいつまでも全身全霊を注いでいられるほど、今の圭介はヒマでは無いからだ。
 結局、あの少年がどう思おうとも、今の圭介は以前の圭介と同じ『人間』であり、「男」から「女」になったからといって“本質的な部分”では圭介は圭介のままで、少なくとも本人は変わっていないと思っている点では、揺るぎが無かった。
 一晩が過ぎた翌朝、迎えに来た由香に、いつものように髪を梳(くしけず)られながら圭介は思う。
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