■感想など■

2009年08月12日

第15章「獰猛な欲望」

■■【8】■■

 “その時”、彼女は『絶望』の中にいた。

 背後は壁。
 前はびくともしなさそうな厚い胸板。
 そして迫る浅黒くむさ苦しい男の顔。
 「進退窮まる」というのはこういう事を言うのだ。
 もう何分も前にチャイムは鳴り終わり、周囲に人影は一つも無い。授業の見回りや敷地内の移動などで学校関係者の一人でもいそうなものなのに、見事なまでに誰もいなかった。

 ――もう諦めるしか、ないのか。

 体の中では“じんじん”とした獰猛な嵐が吹き荒れ、腕は鉛でも流し込まれたかのように重かった。体全体が“ぽっぽっ”と火が灯ったかのように熱っぽく、視界はぼんやりとして現実感に乏しい。キツく掴まれたままの顎の痛みさえなければ、「これは夢の中の出来事です」と誰かに言われたら、そのまま、サンタを信じる3歳の女の子みたいに頷いてしまいそうだった。
続きを読む

2009年08月11日

第15章「獰猛な欲望」

■■【7】■■
 生徒達に「ソラ先生」と呼ばれている保険教諭の空山美智子は、保健室の机の上に行儀悪く両脚を投げ出して、昨日の事をぼんやりと考えていた。
 昨日。
 山中桂の母親であり、美智子をはじめとする『星人』のリーダーでもある山中涼子と、この保健室で交わした会話の事を。

         §         §         §

 涼子の寿命が尽きかけている事に、『星人』の中でも一番最初に気付いたのは、他ならぬ美智子だった。

 『星人』のコミュニティを作り上げ、『ネットワーク』を構築し、『ナーシャス』を復活させた『星人』の現リーダーは、桂をこの世に産み出した時、自分の大切なものを分けた与えたがために、本来は不死にも近い命を極端に縮めてしまったのだ。

 ――涼子は、子宮を使って桂を産み出したわけではない。

続きを読む

2009年08月10日

第15章「獰猛な欲望」

■■【6】■■
「風邪!?」
「そ。センコーがそう言ってた」
 翌日の金曜日の1時間目が終わった休み時間、桂は「教室棟I」の1階から2階へと昇る階段の踊場で、見知ったE組の生徒を捕まえ、健司が教室にいるかどうかを聞いた。
 その答えが、これである。
 やせぎすで神経質そうな顔立ちの彼の話によれば、昨日の午後から、健司はどこかだるそうにしていたらしい。
『アイツ……そんなこと一言も……』
 1階の渡り廊下のすぐそばにある水呑場にもたれて、桂は心の中でひとりごちた。昨日の帰りは水泳部のミーティングがあるとかで、健司とは一緒に帰る事が出来なかった。最後に見たのは、職員室の前で玲奈と話しているところに鉢合わせた時だ。
 ひょっとしたら、その時にはもう具合が悪かったのだろうか……。
続きを読む

2009年08月09日

第15章「獰猛な欲望」

■■【5】■■
 その夜、山中家には久しぶりに家族が全員揃っていた。

 そこには、いつにも増して、とてもとても“あたたかいもの”があった。
 相変わらず父親は「馬鹿」で、桂がなんだか熱っぽい顔をして“ぼ〜っ……”としているのを「発情したか?」などとからかっていたけれど。
 相変わらず母親は、夫にべったりで“娘”にべったりの、家の外とかテレビの映像の中とはまるで違う「“熱愛”妻」で「“超過保護”母」な表情が全開だったけれど。
 それでも、出張とかで一週間に何日もいない父と、芸能人だから……で片付けてしまうにはいささか責任放棄気味な母と、なんだかんだ言っても桂はこうして一緒にいる時間が好きだったのだ。
 2人はいつも仲が良過ぎるくらいに良くて、桂が生まれてから17年経った今でも、2人で頻繁に旅行に出かけているくらい、互いを認め合い、信じ合い、必要としていたから。
続きを読む

2009年08月08日

第15章「獰猛な欲望」

■■【4】■■
 後ろ手に保健室の扉を閉め、桂は“ほうっ……”と吐息を吐いた。
 自然と両手で体を抱き、“ぶるっ”と身を震わせる。体の芯が“じんじん”として、熱っぽさがちっとも抜けなかった。

 ――体が熱い。

 しゃがみ込みそうになるほどでは無いけれど、それでも脚に力が入らなくて、廊下の窓に手をかけて体を支えた。
『明日まで……』
 この“じんじん”と痺れるような、浮遊感にも似た「高ぶり」を我慢しなければならない。
「んっ……」
 意識しないように……と努めても、硬く立ち上がった乳首はブラの裏地と擦れるだけで刺激となったし、パンツの内側に“念のため”と貼り付けたおりものシートも、刺激を増しこそすれ抑えてくれはしない。
 たっぷりと濡れ、火照り、痺れる。
続きを読む

2009年08月07日

第15章「獰猛な欲望」

■■【3】■■
 翌日も桂は、朝から抗し難い強烈な性的欲求を感じたけれど、どうにか自慰をしたいという欲望を抑え込む事に成功した。

 夏が近付いてきて日増しに強くなる熱気の中、ベッドで半分覚醒した状態のまま、おっぱいとあそこへ無意識に向かう手を引き剥がすと、冷たいシャワーで強引に高ぶりを鎮めた。登校した後も、“うずき”と“火照り”の続く午前の授業中だって、なんとか我慢し続けた。おっぱいの先端とあそこに、たっぷりと血が流れ込んで充血して、体を少し動かすだけでその部分が脈打つような気がした。
 トイレに行っても“じんじん”とするあそこには必要以上に触れず、ウォシュレットの刺激に思わず声を上げてしまいそうになりながら、必死になって自分を抑え続けたのだった。

 こんな時、健司が朝練で良かったと、思う。

続きを読む

2009年08月06日

第15章「獰猛な欲望」

■■【2】■■
 次の日の水曜日、健司のタイムが目に見えて落ちてきている……と、彼の従姉であるところの岬玲奈から話し掛けられたのは、桂が水泳授業のためプールに行こうと教室を出た、2時間目後の休み時間のことだった。
「何か心当たりは無い?」
 と、麗しくも涼しい眼差しで問われるものの、桂にも由香にも、特に心当たりは無かった。
 今朝も朝練で健司とは別々の登校だったけれど、昨日の帰りは別段、普段と変わりない様子だったからだ。確かに少し元気が無いようにも見えたけれど、それは大会が近いためナーバスになっているのだろう……と桂も由香も思っていた。昔から健司は、ああ見えて結構デリケートなところがあるから。
続きを読む

2009年08月05日

第15章「獰猛な欲望」

■■【1】■■
 月曜日からは、いつもの日常がいつものように通り過ぎていった。

 「親友宣言」を自分からしてしまった桂は、もう、健司に対して焦ったり、特に意識したりしないよう心に決めた。
 彼が「好きだ」というキモチに変わりは無いのだけれど、焦って全てを台無しにしてしまうより、卒業までの2年半を、彼と由香と3人で、今までのように楽しく過ごしていこうと思ったのだ。
 心の奥底に秘めた「好き」というキモチを誤魔化す事は出来ないけれど、だからといって、彼に絶対応えて欲しい……という気持ちが抑えられないわけではないからだ。
 いつか、ちゃんと伝えようと思う。
 全てを伝えようと思う。
 自分が『星人』のハーフである事も、仮性半陰陽とかの誤魔化し無く、元々は正真正銘の男だった事も、健司への友情が元で肉体が変化し、それが愛情に変わった事も……。
 それで彼に嫌われてしまうとは、思えなかった。
続きを読む

★足跡代わりにポチッとしてってくださいな★