■感想など■

2009年09月02日

第19章「恋人」

■■【4】■■
 朝の繁華街は、哀しくなってしまうくらい寂しい。
 夏の熱さが本格化する前の、ほんのわずかな清涼の空気の中、桂は健司と一緒に駅のホームで言葉も無く電車を待っていた。
 駅に来るまでの繁華街の大通りでは、新聞や、何かの包み紙の切れ端、空き缶、パック、菓子の袋などが風に舞い、それで働き始めている人の姿が無ければ立派なゴーストタウンのようだった。最近はどこの街でも問題になっているカラスの集団が、朝から精力的にゴミ箱を漁っているのを見て、なんとなく桂は「これも一つの立派な生態系なんだろうな……」と関係無い事を思ってみたりもした。
 つまり、夏休み最初の日となる7月19日水曜日の朝は、桂が「オンナ」になった初めての朝であるにも関わらず、あっけないくらいいつもと同じような朝だったのだ。

 健司から予備のシャツを借りてトイレで綿シャツの下に着込んだ桂は、ようやくノーブラの落ち着かない感じから開放されていた。
続きを読む

2009年09月01日

第19章「恋人」

■■【3】■■
 トイレから出た時、健司はもう服を着て、ベッドに腰掛けて靴下を履いていた。
 照明も点けられ、部屋の中はさっきよりずっとずっと明るい。
「け……健司……ちょっとあっち向いてて」
「……どうしたの?」
「いいからっ」
「……恥かしがってないで、出ておいでよ」
「あっち向いてろって」
「ちょっと前までもっとスゴイことしてたし、さっきも平気だったじゃない」
「さっきはさっき。今は今」
「わかんないなぁ……」
 なんとも言えないような顔をして、健司は桂に背中を向ける。
続きを読む

2009年08月31日

第19章「恋人」

■■【2】■■
 今の桂は、かつて『圭介』だった時に無意識下において結実していた自分の理想的な女性を、自ら体現しているようなところがある。もし、保険教諭であり、『星人』であり、そして桂の出自そのものに深く関わっている空山美智子が、健司との睦(むつみ)を経た今の彼女を見たらならば、きっとそう言うに違いない。
 そもそも、男が深層心理の奥深くに形作る『自分の思い描く理想的な女性像』とはなにか。
 それはいわゆる『アニマ(Anima)』とも呼ばれ「男性の中の女性像」とか「女性原理」などと呼称されるモノなのだけれど、今の桂は“彼女が『圭介』であった(自意識に目覚め性徴を意識してからの)十数年間に培われた女性観”や“「女性とはこうあるべき」「こんな女性が女らしい」という、やや大時代的な概念で形作られた「世の多くの男性が理想とする女性像」に少々偏った認識”によって形作られているようだ。
続きを読む

2009年08月30日

第19章「恋人」

■■【1】■■
 目が覚め、シーツの中でもぞもぞと身じろぎし、桂はゆっくりと身を起こした。
 頭がぼんやりとしている。
 体の節々が痛んで、シーツから“ぽろり”とこぼれたおっぱいを無意識に隠すようにして自分の体を抱く。
 部屋は、薄暗かった。
 寝息が聞こえ、一瞬、隣に寝ているのが誰かわからなくて“ぎょっ”と目を見開くと、今度は一転して顔を赤くし、世にも幸せそうな顔で“にへらっ”と笑った。
 そうしてから右手で口元を隠し、むにむにと唇を動かしながら、薄闇の中、仰向けになって口を半開きにして“ぽちょぽちょ”と無精髭が申し訳程度に生えた彼の顎の線を目で追った。
続きを読む

★足跡代わりにポチッとしてってくださいな★