■感想など■

2009年09月07日

第20章「ここにあなたがいないこと」

■■【5】■■
 彼女は、自分の性癖を、完全に「男性」に“向いている”と思っている。
 男の硬くて熱い男根を自分の膣に迎える「セックス」は大好きだし、男の汗の匂いも筋肉の硬さも性器も、それに、精液の匂いだって大好きだ。
 口に含んだ男根が自分のテクニックでいきり立つのを感じるたびに、全身が喜びに震えてしまう。
 体を絡ませ口付けを交わし、唾液を飲んだり飲ませたりするのも好きなら、息も絶え絶えになるくらい逞しい男根で責め立てられる様を想像するだけで、あそこがとろとろに濡れてしまう。
 セックス狂いのニンフォマニア(女性色情狂・多淫症)ではないか? とも思わないでもないけれど、それで特に困った事は無いし、男を操縦するのも、イイ男を捕まえるのも、自分のこの性癖があってこそだと思うから改めるつもりなんて無い。
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2009年09月06日

第20章「ここにあなたがいないこと」

■■【4】■■
 浴衣は、10日に完成した。

 結局、桂の浴衣は新しく作ると結構時間がかかるようで(由香は「規格外のおっぱいのせいだ!」とか言ったけれど、そういう問題じゃないと桂は思った)、15日に間に合わないとどうしようもないため、由香が、桑園京香が今年新しい浴衣を作るから、そのお下がりをもらえないか彼女に聞いてみたのだ。

 部分的に少し手直しし、それに帯などの、わざわざ直さなくてもいいものは新調して、そうして鏡の前に立った桂は、なかなかに浴衣が良く似合っていた。
「へぇ――それなりに見られるもんね」
「“それなり”ってなんだよっ」
「ほら、けーちゃん動かないっ!」
 桂と、家まで浴衣を持ってきてくれた京香と、当然のようにその場にいる由香の3人は、桂の部屋で少女の体にTシャツの上から浴衣を合わせ、鏡に映った姿をためすがえす眺めていた。
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2009年09月05日

第20章「ここにあなたがいないこと」

■■【3】■■
「で? 1週間以上も連絡してないって、ホント?」
 由香が、桂に怒った。
 それはもう、ものすごいイキオイで。

 亮と街で会ってから、もう4日が経っていた。
 あと3日もすれば7月も終わってしまうという、7月28日の出来事だった。
 “もそもそ”と遅い朝御飯を食べていた桂は、マーガリンを塗ったパンを咥えたまま、キッチンの入り口で仁王立ちした幼馴染みを“ぎょっ”とした顔で見やった。
 思わずぱっくりと口を開け、そのせいで机の上に落ちかけたトーストをそれでも危うくキャッチしたのは、もはや奇跡に近かった。
「なんで……そんな……」
「さっきそこで水泳部の門西くんに会ったの。健司くん、けっこー落ち込んでるみたいだよ? けーちゃんからメールの返事が来ないって」
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2009年09月04日

第20章「ここにあなたがいないこと」

■■【2】■■
 翌日から、桂は由香が外に出かけようと言っても用事があると言って出ず、健司からのメールも滞りがちで、電話も留守番電話にしたままだった。
 一度断ってしまうと、次からはもうどう会話したらいいのかわからなくて、“あたふたしてみっともないところを見せてしまうくらいなら最初から出ない方がいい”から……らしいのだけれど、そのくせ5日もそれが続いて、そのうち健司からちっともメールが来なくなると、今度はどうしようもなく寂しくて哀しくて後悔に涙さえ出そうになるのだから、女というものはやはり理不尽極まりない生物らしい。


 そしてそれは、夏休みに入って6日目の7月24日の事だった。

 食料の買い出し以外はほとんど一日中家に篭る……という“プチ引き篭もり”になってしまった桂だって、何も、日がな一日テレビを見たり漫画を見たり昼寝したりネットをしたり……といった人生の落伍者みたいな腐敗した生活をしていたわけではない。
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2009年09月03日

第20章「ここにあなたがいないこと」

■■【1】■■
 夏休みに入り、テレビでは連日のように女優「高原照子」……つまり桂の母「山中涼子」の話題でもちきりだった。
 突然の休業宣言の後、日本から姿を眩ましただけでも十分話題だったのに、欧米の有名な映画監督のオファーを受けたとか蹴ったとか無視したとか様々な憶測が飛び交い、プロダクションに問い合わせても対応は通り一辺倒のマニュアル対応だったから、情報がまったく得られないマスメディアがこぞってニュースにしてしまったのだ。
 去年の暮れに公開された映画『ふたりの恋』で共演した香坂舞菜という新人女優などは、あの映画のあとはちっともパッとしなかったのに、まるで話題に便乗するかのように再びライトを浴び始め、とうとう秋の新番組の主役に抜擢されたそうだ。

 考えてみれば「高原照子」というのもふざけた名前だ……と、桂は思う。
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