■感想など■

2009年09月12日

第21章「あなたにここにいてほしい」

■■【5】■■
 8月18日の金曜日は、久々の登校日だった。

 真夏の最中(さなか)、15日の夜から17日の午後まで熱を出して寝込んだ桂は、18日の朝、まだ少しだるい体を引きずるようにして登校した。
 それは、母がもし家にいたら、きっと泣いてでも止めただろう自殺行為のような所業。
 実際、家からほんの少しの距離でありながら、朝だというのにさっそく焼けたアスファルトとギラつく太陽放射のサンドウィッチは、残り少ない桂の体力を容赦無く奪っていった。
 ふらふらしながら教室にたどり着いた桂に、まさか登校してくるとは思っていなかったため一足先に登校していた由香がびっくりして早く帰るように言ったけれど、桂は彼女の言葉など聞かず、真っ先に健司は来ているか尋ねた。
続きを読む

2009年09月11日

第21章「あなたにここにいてほしい」

■■【4】■■


 夢を見ていた。


 彼は、夢を見ていた。
 長い夢だ。
 いつ眠ったのだろう?
続きを読む

2009年09月10日

第21章「あなたにここにいてほしい」

■■【3】■■
 “カラコロ”と、可愛くも涼しげな音が住宅街を通り抜けてゆく。
 浴衣姿の桂が、人もまばらな夜道を一人、懸命に走っていた。
 着慣れない浴衣。
 履き慣れない下駄。
 走るとは言っても全力は出せない。
 もどかしくて、いっそ脱いでしまおうか? と思った途端、少女はアスファルトのちょっとした段差に躓き、つんのめった。
 転倒こそしなかったものの、少女は激しい痛みに、咄嗟にその場へしゃがみ込んだ。
「いつっ……」
 左の中指の爪が割れていた。
 血が滲み、刺すような痛みが惨めな気持ちを加速してゆく。

 伸吾は、『あの時』の桂を見ていたのだ。

 亮と街中で出会い、裏道のところでキスをねだるように目を瞑り、顔を上げ、口付けを待つ姿を。
続きを読む

2009年09月09日

第21章「あなたにここにいてほしい」

■■【2】■■
 人々のざわめきが、いつもよりずっと大きいように感じる8月の15日。
 桂は駅前のロータリーで浴衣を着たまま、少し心細げに健司を待っていた。
 由香と京香と、その他大勢とは、縁日の行われている神社で合流する予定だった。

 あの日。

 京香に健司への連絡を約束させられたあの日。
 桂は彼女に言われたとおり、彼に電話した。
 電話に彼は出ず、代わりに応対した彼の兄は、いつものようにやり手の弁護士を思わせる口調で、弟は出掛けていると告げた。
 場所は、図書館だった。
 だから、桂も行ってみた。
 でも、いなかった。
続きを読む

2009年09月08日

第21章「あなたにここにいてほしい」

■■【1】■■
 テーブルの上に、小さな水溜りが出来ていた。
 少しねっとりとして、少し濁った、粘液の水溜りだった。

 上半身をテーブルに乗せ、仰向けに横になって天井を見つめている桂は、涙のいっぱいに溜まった瞳を“ぎゅっ”と閉じ、声の漏れそうな唇を引き結んだ。
 気を抜くとたちまち甘い甘い甘い声が、とろとろにとろけたアソコから滴る蜜汁のように、だらしなく流れ出してしまいそうになる。
「んっんっんっんっ……」
 リズミカルに、しゃくりあげるように繰り返される短い呼吸は、口元を抑えた左手の中から聞こえてくる。
 “びくっびくっびくっ”と体が震えるたびに、テーブルが密やかな軋みを上げているのがわかった。
続きを読む

★足跡代わりにポチッとしてってくださいな★