■感想など■

2009年09月18日

第22章「暴かれた本当の嘘」

■■【6】■■
 長い通路を何分も歩き、ようやく至った突き当りには扉らしい扉は見えない。
 けれど、善二郎は躊躇う事無くただの壁に向かって歩を進め、やがて壁にぶつかる……というところで音もなく壁は消えた。
 暗い部屋だ。
 廊下も薄暗かったけれど、部屋の中はもっと暗い。
「親父?」
 そばにいるはずの父の姿が、いつの間にか見えなくなっていた。
《けーちゃん》
 歪んだ、何重にもフィルターをかけたような声が不意に響く。
「母さん!?」
 それは、もう何日も耳にしていない母、涼子の声だった。
「か、母さん、なんでここにいるの? 親父と旅行してたんじゃないの?」
《ごめんね。あれ、うそ》
「は?」
 含み笑いでも混じっていそうな、場に全く沿わない茶目っ気のある声が桂の耳を打つ。続きを読む

2009年09月17日

第22章「暴かれた本当の嘘」

■■【5】■■
 一瞬、『お前の母親は実は私だ』と言われた気がした。
 つまり、ひどく嘘っぽかったのだ。
「お前のお腹には、お前と健司の受精卵があるんだよ」
 彼女の目は真剣で、だから、桂はゆっくりと両手を下腹部に当てた。
 この奥。
 腹膜や腹筋や、消化器官の奥に隠された“オンナの臓器”に、自分の『卵子』と健司の『精子』が結実した『証』が着床している……?
 近頃になって特に敏感になった乳首が、ノーブラおっぱいの上でシャツの裏地に擦れて“ぴりり”と痛んだ。
「最近、ちょっとだるかったり、おっぱいが張ったりしなかったか?」
 思い当たる事は、じゅうぶんにあった。
「なにより、時期的にはもう生理を迎えている頃だろう?」
 美智子の言葉に、桂は“こくん”と喉を鳴らした。続きを読む

2009年09月16日

第22章「暴かれた本当の嘘」

■■【4】■■


 最初から惹かれ合うように調整されていたからこそ、桂は健司に心を許し、健司は桂を選んだ。


 その事実は、桂の心を粉々に打ち砕いた。
 それでも。
 それでも尚、美智子は語る。
「……健司と由香は、適合者のはずだった。
 確かにそう仕向けたのは私達だけど、決断したのはお前の意思だ。
 ……私達は何一つ強制はしていない」
 言葉の内容とは裏腹に、その表情には苦悩も逡巡も無く、ただ事実だけを述べる冷徹な科学者のような色だけがあった。

 「健司」という名の『ガーディアン』は、元々、桂の母である涼子と美智子が、『星人』のテクノロジーで“生み出した”人間だ。
 いわば、数百年前、まだ『星人』の数が多かった頃に彼らが個々で作り出した、不完全な、『混じり』と呼ばれる人々と同種であり、桂の父親であり涼子の『伴侶』である善二郎の祖先と、同じ“種類”の人間なのである。続きを読む

2009年09月15日

第22章「暴かれた本当の嘘」

■■【3】■■
 白い部屋の中で、真実は静かに、ゆっくりと、桂の感情の波を捉えるように語られた。
 熱くも寒くもない。
 湿ってもいず、乾燥し過ぎてもいない。
 だのに、桂の額には汗が浮かんでいた。


「お前はまず、自分が私達『星人』にとってどれだけ大切な存在なのか自覚して欲しい」
 そう前置きのように美智子に言われた桂は、何をいまさら……と、一瞬拍子抜けしたように薄く口を開け、それから不意に眉を顰めた。
 美智子は、そう言う事で彼女達『星人』のスタンスを桂に示したのだ。
 以前、美智子自身が言っていた

『子供を護るのは親の義務だ。
 子供を護るのは種の責任だ。
 だから私達「星人」は、お前を全力で護る。
 言っておくが、「星人」にとって地球人の常識や法律や慣習や宗教や、その他もろもろの“お前を縛る全て”など、紙屑同然だ。そんなものは鼻をかんで丸めてゴミ箱に3メートル先から投げ入れてやる。それを拒む事は出来ないし、する権利を与えた覚えも無い。
 私達はお前を護るためなら命を奪う以外の事は何でもやる。
 それを覚えておくといい』

 今思い出しても物騒な考えだ。
 しかしそれも彼等の境遇と悲願を思えば、わからなくもなかった。続きを読む

2009年09月14日

第22章「暴かれた本当の嘘」

■■【2】■■
 ふと気付けば、枕元のサイドテーブルの上に、白い封筒があった。
 鼻を啜り、健司の手をシーツに下ろしてベッドを回り込む。
 健司の姿があまりにもショックで、そして玲奈の剣幕があまりにも恐ろしくて、そんなものがある事さえ気付かなかったのだ。
 震える手で裏返すと、そこには見慣れた文字で
「けーちゃんへ」
 と書かれていた。
『健司……』
 思わず、ベッドの上で包帯に隠された彼の顔を見る。
 規則正しい機械の作動音に合わせて、呼吸器が酸素を送り込んでいる。
 もう、自力では呼吸すら出来ないのだろうか?
 ふとそう考えてしまって、慌ててその考えを振り払う。続きを読む

2009年09月13日

第22章「暴かれた本当の嘘」

■■【1】■■
 それは、何の変哲も無いちょっと大きな町医者……という感じの建物で、区役所通りの坂を少し登ったところにあった。
 明かりが消え、ひっそりとした玄関をまわり、裏口に自転車を走らせると、そこには迎えがいた。
 彼女の後をついて非常灯しか点いていないリノリウムの廊下を歩き、エレベーターに乗って数分後、少女はその部屋に一人で入り、そして、立ち尽していた。



 いったいこれはなんだろう?



 「それ」を見た時、桂はぼんやりとそんなことを思った。続きを読む

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